化学プロセスと自動制御~はじめに~(江頭教授)
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化学工場では私たちの生活に役立っている化学物質が日々大量に合成されています。生産のための合成、その際の化学反応そのものは化学の実験室で行われているものと同じですが、方法は実験室での作業とはかなり違う、というか似ても似つかないものです。特にスケールは化学実験で扱われるミリリットル~リットルレベルの量とくらべてずっと大量です。(大量といってもかなり幅がありますが。)
さて、研究室と化学工場で行われていることの大きな違い、もう一つの特徴は化学工場での操作がほとんど機械で行われている、ということです。研究室では手作業が中心ですが化学工場でこれをやったら大変、というか無理ですね。小さくてもm3スケールの薬品を扱うとなるとどうしても機械の力が必要です。
人型巨大ロボットに乗り込んで超巨大フラスコをゆさゆさ……、なんてシュールな絵づらではなくて、タンクやパイプをベースにした特製の装置を使用して、混合や加熱を行い、それによって化学反応が起こる様になっています。
ではその巨大な化学工場はどの様に運転されているのでしょうか。流量の調整、温度の調整、場合によっては圧力の調整など、いろいろな機械と同様、自動制御が活用されています。このため化学工場はその巨大さに比較して意外と少ない人数で運転されています。
さて、今後数回で化学プロセスで行われる自動制御について少し解説してみたいと思います。
化学工場で行われる物質の生産の過程は大きく分けて二つのタイプに分類されます。
一つはバッチプロセス。「バッチ」ということばは説明しにくいのですが、かまどでパンを焼くとき、一つのかまどで一回に焼かれたパンを同じ「バッチ(batch)」と呼ぶそうですから、「かまどでパンを焼く」ような処理がパッチ処理ということになります。転じて、化学の実験室で普通に行われるような、一定量の原料を分取して、混合、加熱などの、複数の処理を順を追って行うタイプの生産過程(プロセス)をバッチプロセスと呼ぶのでしょう。
さて、もう一つのタイプは連続プロセス。こちらは混合や加熱を行う専用の装置があって、その間を液体や気体の原料がパイプを通して流れてゆく、という形式です。複数の装置がパイプで連結されていて、原料が上流から下流に流れてゆくにしたがって製品へと変化してゆくわけです。
さて、それぞれのタイプと自動制御の関係について考えてみましょう。バッチプロセスで同じ製品を生産するためには、「同じ処理を繰り返す」ことが大切です。常に一定の原料を同じ温度と圧力で同じように処理する。加熱や冷却について考えると、複数回の「バッチ」それぞれの処理が同じ時間経過をたどる必要があるわけですね。
一方、連続プロセスでは明確な始まりも終わりもなく、原料の流れが製品の流れに変化するのですから、一つ一つの処理を行う装置が同じ条件になっている、つまり時間に対して変化しないことが大切だ、ということになります。
化学プロセスにおける自動制御、まずは「装置の条件を一定に保つ」という機能が必要です。これが実現できれば、バッチプロセスで要求される「同じ時間経過をたどる」という機能は「一定の条件」を時間的に変化させることで実現することができます。
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