化学プロセスと自動制御~PID制御~(江頭教授)
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化学プロセスで用いられている自動制御についてシリーズで解説しています。前回まででPI制御を導入することによって加熱する対象を目標温度で一定に制御することができる、ということが示されました。これで一応目標は達成したのですが、今回は、より早く目標値に到達する方法について考えてみましょう。
PI制御を行う制御装置は現在から過去に至る「目標値と現在値の差」のデータを与えられながら制御対象の出力を決めています。制御の質を向上させるためには二つの方法が考えられます。一つはもっと他の要素を導入すること、もう一つは制御のパラメータを適切に設定することです。
まず一つ目。PI制御では「目標値と現在値の差」そのもの(P制御)と、「目標値と現在値の差の積分」(I制御)に比例してヒーターへの出力が決められているのならば、当然(かどうかは分かりませんが)もう一つの考慮すべき対象は「目標値と現在値の差」の「微分」となるでしょう。これがD制御で三つ併せてPID制御、となるわけです。
整理すると、
- その時間の「目標値と現在値の差」に比例した電力を供給する制御を比例制御(P制御)
- その時間までの「目標値と現在値の差の積分」に比例した電力を供給する制御を積分制御(I制御)
- その時間の「目標値と現在値の差の微分(変化率)」に比例した電力を供給する制御を微分制御(D制御)
と言うのです。この三つを組み合わせたものがPID制御で、三つの制御の比例定数を巧く調整することでよりよい制御が可能なはずです。少なくともPI制御で目標値で安定的な制御は実現できるのですから、D制御を加えることでより自由度が広がれば「可能性として」PID制御の方がよりよい制御ができるはずです。
さて、ここで「可能性として」と言っている様に、D制御を加えるだけで実際によりよい制御ができるという訳ではありません。そこで最初に述べた二つ目の方法、「制御のパラメータを適切に設定すること」が大切になってきます。
実はD制御を加えると、巧くいけばより早く目標値に到達し、安定するような制御を実現することができますが、下手をすると目標値で安定しない状態に陥ることもあるのです。PID制御、とくにD制御が入っている場合、パラメータ、具体的には「目標値と現在値の差」、「目標値と現在値の差の積分」、「目標値と現在値の差の微分」という変数に対して加熱するヒーターへどの程度の出力を出すか、その(三つの)比例定数の値を巧く設定することがとても大切になります。
ではこのPID制御のパラメータ、実際にはどのように設定すれば良いのでしょうか?その具体的な手順については、次回に説明させていただきましょう。
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