化学プロセスと自動制御~PI制御~(江頭教授)
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化学プロセスで用いられている自動制御についてシリーズで解説しています。前回はON/OFF制御では一定にならない温度制御の問題点を改善するためにP制御(比例制御)による制御を行いましたが、温度は目標値に到達することができませんでした。今回は温度を目標値に到達させる方法について解説しましょう。
P制御ではオフセットが残って目標の温度に到達できない、この原因は前回も解説したように温度が目標値に達したとき「目標値と現在値の差」がゼロになってしまう、加熱速度もそれに比例してゼロになってしまうからです。もっと正確に言えば「目標値と現在値の差」が小さくなると加熱速度も小さくなってしまうので、結局目標値に到達できないのです。
この問題を解決するためには「目標値と現在値の差」以外のものを加熱速度の制御に加える必要があります。何が適当でしょうか?
瞬間瞬間の「目標値と現在値の差」に注目しているとこの問いには答えられないでしょう。ある瞬間での「目標値と現在値の差」がゼロになることこそが制御の目標ですが、これは制御の目標が達成された瞬間には制御のための情報が失われてしまう、ということでもあるのです。ですから制御装置は「目標値と現在値の差」の時間変化を記憶しておく必要があります。
現在の制御装置では単純に「目標値と現在値の差」の積分値をデータとして保存し、その積分値に応じて加熱速度変化させる方法がとられています。積分値に応じた制御、ということでこれをI(Integral = 積分)制御と呼んでいます。通常I制御は単独で用いられることはなく、比例制御と組み合わせたPI制御として用いられています。
さて、前回同様、このPI制御を実験してみましょう。電球をヒーター代わりにしている点は同じですが前回からはビーカーの中の水を加熱してその温度を制御する実験を行っています。(今回も動画の速度は10倍に加速しています。)
P制御にI制御を加える、つまりPI制御を行うと温度は目標の40℃に一致する様になりました。
これはI制御の効果、つまり「目標値と現在値の差の積分値」に比例して加熱速度を増やしたことの成果でしょう。「目標値と現在値の差」は温度が目標値に近づくにつれて小さくなりますが、その積分値は大きくなり続けるでしょう。温度が目標値に一致した後、「目標値と現在値の差」はゼロになりますが、「目標値と現在値の差の積分値」は一定値にとどまります。その一定値が実は温度を一定に保つために必要な加熱速度に一致するのです。
ここでPI制御によって決まった一定の加熱速度はちょうど対象を目標の温度に一定化するのに必要な加熱速度になります。この加熱速度を予め計算するのは大変なのですが、自動制御のよってまさに自動的にその値が分かるのです。これがフィードバック制御のメリットです。
さて、装置の温度を目標値で一定に保つ、ということを目標とするなら、PI制御で充分に実現可能だ、ということが分かりました。次回は、さらに高い目標として、より早く目標値に到達する方法について考えてみましょう。
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