« 2023年5月 | トップページ | 2023年7月 »

2023年6月

2023.06.30

小学生SDGsコンテストが今年も開催されます(江頭教授)

|

 今年も本学が主催する「小学生SDGsコンテスト」が開催されることが発表されました。このコンテストは八王子市の子供たちがSDGs(持続可能な開発目標)について考え、表現する機会を提供しています。

 SDGsと言えば「サステイナブル工学」、ひょっとして「サステイナブル工学」についての研究発表会ですか

いえいえ、小学生のコンテストですから形式は自由。『イラスト』『設計図』『文章』『写真』『4コマ漫画』などどんな「かたち」でもOKです!

 実はこのコンテストは昨年度スタート。昨年のコンテストでは、私も作品の審査に参加しました。その時、小学校2年生が描いたイラストを目にして、自分の子供時代を思い出し、とても懐かしい気持ちになりました。どう表現して良いか分からないのですが、そのイラストはものの形や風景を描くものではなく、仕組みや機能を表現するためのイラストでした。とはいえ図解や設計図とも違って、何というか「仕組みや機能を考えて理解したことの喜びがイラストにあふれ出ている」様に私には見えたのです。

 これは私の思い込みかも知れません。私自身は、小学生の頃に学習漫画で上水道や下水道の仕組みについて知ったときに、強い興味と憧れ(?)を感じ、それを何とか表現したくてレゴ(ブロック玩具です)で「なにか」を作っていたことがあるのです。コンテストに投稿してくれた小学2年生の人と、その頃の私とを勝手に重ねていた、ということでしょうか。

 そのイラストは、なんと優秀賞を受賞しました。その子が描いた作品が、他の審査員や参加者たちにも高く評価されたのでしょう。(もっともみんなが子供頃に「なにか」を作っていたことがあって共感した、というわけではないでしょうが。)

Photo_20230630053301

続きを読む "小学生SDGsコンテストが今年も開催されます(江頭教授)"続きを読む

2023.06.29

フレッシャーズゼミで実験をしよう!(江頭教授)

|

 「フレッシャーズゼミ」は本学全体で行われている一年生向けの授業です。本学固有の授業なのでしょうか、「フレッシャーズゼミ」で検索すると本学のサイトがヒットします。(私の環境のせいも知れませんが。)

 大学に入ると「クラス」というものが無くなってしまい、学生諸君は時間ごとに授業の行われる教室を転々とすることになります。大学で自分の居場所ができるのは研究室に配属された後となります。これが通常の大学のスタイルなのですが、入学から数年の間、居場所の無い期間は大学生にとっていろいろな意味でリスクの多い期間でもあります。

 そこで、本学ではアドバイザー制度を設けて新入生の時点からいわゆる「担任の先生」のような教員を一人一人の生徒に割り当てています。

 フレッシャーゼミはいわばその「担任の先生」が受け持つホームルームの様な授業だ、と思ってください。とはいえ、ホームルームだけで毎週一コマ100分では時間がもったいない。ということでグループワークとポスター発表を行うようにしています。

 グループワークのテーマは基本的には学生さんにお任せなのですが、応用化学科ではここ数年は(コロナの2020年は除いて)授業時間に空いている学生実験室を使ってなにか実験をすることを推奨しています。

 さて、学生諸君はこんなとき、どこから実験のネタを拾ってくるのでしょうか。

_20230621_112940

続きを読む "フレッシャーズゼミで実験をしよう!(江頭教授)"続きを読む

2023.06.28

ガラス器具洗いと皿洗い(江頭教授)

|

 工学部の応用化学科に新入生が入って学生実験を始めたばかりのことです。

「あのー、ガラス器具を洗ったのですが布巾はどこですか?」
「えっ?布巾って、何で?」
「だって、残った水を拭かないと跡がつくじゃないですか。」

そうか、化学の実験でのガラス器具の洗浄方法は食器の洗い方とは違うのですが、一般の人(それに入学したばかりの学生さん)には知られていないですよね。

 ガラス器具はブラシで洗う、必要なら洗剤を使う、本当にしつこい汚れがついた場合には特殊な洗浄方法もありますが、この辺は食器洗いと同じでしょう。ガラス器具には気づかないうちにひびが入っている可能性があるので、手で洗わないこと、という注意を受けますが、本当は食器洗いでも同じですよね。

 違いはその後。ガラス器具は純水(イオン交換水など)で流して自然乾燥、あるいは乾燥器(低温のオーブンのようなものです)に入れて乾かします。最初の話のように、残った水は拭き取らずに乾燥させてしまうのです。

 ポイントは「純水で流す」という部分です。純水と普通の水道水には大きな違いがあります。下の写真は片方が水道水、もう一方が純水です。

Photo

一見、まったく違いが分かりませんが、これを放置して乾燥させると違いが分かります。

続きを読む "ガラス器具洗いと皿洗い(江頭教授)"続きを読む

2023.06.27

0は何倍しても0のはずなのですが…ブラックコーヒーのカロリーの話し(江頭教授)

|

 最近、濃縮したコーヒー(ラベル「希釈用コーヒー飲料」と書かれています)がお店で売られているのを見つけました。なるほど、濃縮しすぎて粉末にすると香りの成分まで蒸発してしまうだろう。なら途中で止めて液体のまま販売して、後で薄めれば良いのか。

 写真の左側がその商品。340mL入りで5倍に希釈するのでこれ1本で1.7L相当になります。このサイズで右側の2Lのペットボトルと余り違わない量。これなら取扱いが易しいですよね。

Fig1_20230626141201

 さて、ダイエットを考えて無糖のブラックコーヒーを選びましょう。普通のペットボトル入りのブラックコーヒー、無糖のものは100mL当たり0kcalです。5倍濃縮の方も当然0kcalのはず。

Fig2_20230626141201

 なのですが、これは一体どうしたことでしょう?100mL当たり14kcalとの表示が。大した値ではありませんが0ではありませんよね。

Fig3_20230626141301

 濃縮された方が100mL当たり14kcal。これを5倍に薄めれば100mL当たりは2.8kcalとなるはず。ということは濃縮なしのボトル入りコーヒーとは違って何かが入れてあるのでしょうか?

続きを読む "0は何倍しても0のはずなのですが…ブラックコーヒーのカロリーの話し(江頭教授)"続きを読む

2023.06.26

推薦図書 I.プリゴジーヌ R.デフェイ 著, 妹尾 学 訳「化学熱力学1,2」(江頭教授)

|

 今回の推薦図書は

I.プリゴジーヌ R.デフェイ 著, 妹尾 学 訳「化学熱力学1」「化学熱力学 2」みすず書房 (1966/10/21)

という化学熱力学の教科書です。

 手元にある本書に書き込んであるメモだと私は1989年の9月にこの本を購入し半月ほどかけて読んでいます。毎朝早くに起きて朝食前の時間をつかって読み進めたことを今でも覚えています。

 別に教科書として指定された訳ではないのです。そのころ私は博士課程の学生だったのですが、どうも「化学熱力学」が分からない、そう感じてもう一度勉強しようと思って本書を個人的に勉強した、という次第です。

 その際に強く印象に残ったのは化学反応において、化学親和力(この教科書では「親和力」とだけ記されています)と反応速度の積がエントロピーの生成速度と等しくなる、つまり化学親和力と反応速度の積は常に正になるという De Donder の不等式についての解説でした。

 この不等式自体の導出は熱力学の第二法則といくつかの定義、そして式変形の結果でしかありません。でも積が常に正だ、ということは二つの値はどちらもプラス、あるいはどちらもマイナスだ、と言うことを意味しています。だとしたら、どちらかが原因でどちらかが結果だ、ということにならないでしょうか?この不等式は「化学親和力によって反応が起こる」ということの証明なのだ、と解釈できるのです。

Photo_20230625054401

続きを読む "推薦図書 I.プリゴジーヌ R.デフェイ 著, 妹尾 学 訳「化学熱力学1,2」(江頭教授)"続きを読む

2023.06.23

「熱の仕事当量」の値(江頭教授)

|

 熱はエネルギーの一つの形態である、ということはエネルギー保存則の説明で皆さんご存じのことかと思います。でも他の機械的なエネルギーの変換、たとえば振り子などの運動エネルギーと位置エネルギーと比べると熱と仕事との変換は何か特別な気がします。日常生活では熱は熱だけで保存しているように見えるのに、そこで敢えて

つまり、熱は仕事と交換可能だったんだよ!!

な、なんだってー!?

となるところがエネルギー保存則の醍醐味(?)ですよね。

 さて、熱と仕事が交換可能だ、つまり「エネルギー」という実体の別の表出なのだ、という説明でよく出てくるのが「ジュールの実験」です。おもりの位置エネルギーを使って摩擦熱を発生させ、その熱量から仕事と熱の交換比率を決める実験。この「仕事と熱の交換比率」のことを熱の仕事当量と呼んでいる訳です。その値は「4.2」とか「4.19」と私は覚えています。

 とまあ、ここまでは皆さんご存じのお話。この 「ジュールの実験」を実際にやってみるとどんなことになるのでしょうか。

 たとえばおもりを1kgとします。移動させる高さはまあ1mでしょうか。重量加速度を簡単のために約10m/s2とすると位置エネルギーは10Jです。これって 2.4cal ぐらい。滑車でつながれた羽根つきの水槽の体積は、そうですね頑張って小さく作っても100mL程度でしょう。そうなると1回のおもりの下降での温度上昇は 0.024℃ でしかないのです。こんな精度で温度変化を測るのは結構大変ですよね。

 逆に考えて水槽の100mLの水の温度を1℃温度上昇させるためには100cal、つまり420Jが必要となります。おもりを42回下降させることに相当していて、これは結構大変な仕事、というか労働なのでは…。

Joules_apparatus_harpers_scan

続きを読む "「熱の仕事当量」の値(江頭教授)"続きを読む

2023.06.22

測定精度は何桁まで達成できるか(江頭教授)

|

 学生さんの「化学の長い歴史を考えれば100桁精度の実験も可能になっているべきだ」という言葉(愚痴?)に触発されて以前に書いた、「化学実験で測定精度は何桁必要か」という記事。ここでは宇宙の全重量に対する水素原子1個分の誤差でさえも87桁で表現できる。つまり化学実験で「100桁」とうのはどう考えてもオーバースペックだ、ということを示しました。

 今回はその第2弾。前回は羽目を外しすぎのきらいがあったので、少し真面目に「実験精度はどのくらいの桁数が達成できるのだろうか」という問題について考えてみましょう。

 いろいろな測定例があるでしょうが、比較的多くの人が感心を持ち、複数のグループが測定精度の限界に挑んでいる、といえば物理や化学で使われる定数の測定ではないでしょうか。

 米国のNIST ( National Institute of Standards and Technology ) のWebサイトにある The NIST reference on Constants, Units & Uncertainty のページにはこの様な定数の測定結果がまとめられています。

 たとえばアボガドロ数の値は

6.02214076 x 1023 mol-1

です。その精度は...100桁?いえいえ、なんと無限なのです!

 少し説明が必要ですね。従来アボガドロ数は「12C 12g(SIなら0.012kg)の中に含まれる原子の数」と定義されていました。この定義をよく見ると「12g」という精度無限の定数が入っていますよね。

 だったら、この「12g」の代わりにアボガドロ数の方を精度無限の定数として定義することができるでしょう。その結果「12g」の方は定数では無くなるので測定が必要になります。でも測定の精度が向上するたびにアボガドロ数が変わる、というよりは「アボガドロ数個の12C の質量」が変わる方がましだろう。ということでアボガドロ数の定義が変更されて正確に6.02214076 x 1023 mol-1 となっているのです。

Photo_20230622084601

 

続きを読む "測定精度は何桁まで達成できるか(江頭教授)"続きを読む

2023.06.21

リバウンドした世界のCO2排出量のその後(江頭教授)

|

 昨年のいまごろ、こちらの記事で「リバウンドする世界のCO2排出量」と題してCovid-19のパンデミックの影響で一旦は減少に転じた世界のエネルギー由来のCO2排出量が2021年には増加、というか急激な増加=リバウンドするという予想を紹介しました。

 昨年の今頃なので日本の温室効果ガス排出量は2020年度のデータがまとまったところ。各国がまとめた温室効果ガス排出量を集計しているUNFCCCの公式のデータは2019年までしかありませんでした。これに対してエネルギーに関する国際機関のIEA ( International Energy Agency ) は電力の需給やマーケットデータを利用した推計値を発表しています。ただし推計するのはエネルギー由来の温室効果ガスのみ。でも人間活動由来の温室効果ガスのほとんどはエネルギー由来の二酸化炭素なのですから、これでも充分な推計だと思います。

 さて、リバウンドした世界のCO2排出量、1年経って今はどうなっているのでしょうか。いや、「今」というのは正しくないですね。推計値でもリアルタイムではないので「去年」にはどうなっていたのでしょうか。

Photo_20230621071801

出典:IEA ( International Energy Agency )

”CO2 Emissions in 2022”

この資料はIEAのWEBサイトから無料でダウンロードできます。

結果は0.9%増で「微増」といったところでしょうか。2022年、世界にはいろいろなことがあったのですが「懸念されるほどには増えなかった(lower than feared)」というのがIEAの評価です。

続きを読む "リバウンドした世界のCO2排出量のその後(江頭教授)"続きを読む

2023.06.20

化学実験で測定精度は何桁必要か(江頭教授)

|

 化学の分野で定量的な(数値を出す)学生実験を始めて体験すると、多くの学生さんが意外と精度が低いことに驚きます。以下の学生さんの感想もその一つ。

化学という学問の長い歴史を考えれば100桁位の測定精度の実験ができていて当然ではないか

うーん、頑張って実験した割に精度が低いとなると不満の一つも言いたくなるのでしょう。それにしても100桁とは大胆な。それなら、精度を高める難しさについてはさておいて、そんな精度が必要なのか、について少し考えてみましょう。

 「化学実験で測定精度は何桁必要か」という問について普通に考えると「ケースバイケースです。」で終わってしまうのですが100桁という心意気に敬意を表してこちらも大風呂敷を広げてみましょう。

 想像しうる限り最大の精度が求められる実験ですから、扱う物質量は「宇宙の全質量」がふさわしいですよね。精度も極限を追求しましょう。水素原子1個まで正確に量ることにします。

Photo

続きを読む "化学実験で測定精度は何桁必要か(江頭教授)"続きを読む

2023.06.19

オープンキャンパスを実施しました。(江頭教授)

|

 昨日、6月18日の日曜日、今年度最初の対面のオープンキャパスを実施しました。おっと、正確には2023年入学の皆さんを対象としたオープンキャンパスは3月にもありましたから、そういう意味では2回目ですね。

 今回のオープンキャンパスは対面、というか来場型(オープンキャンパスの場合はこの呼び方になるようです)とオンライン型のバーチャルオープンキャンパスの両方で実施しました。両者合わせて、ではありますが参加登録数は大学全体で1000人超え。6月のオープンキャンパスとしてはコロナ前と比較しても過去最高だそうです。

 さて、対面あらため来場型のオープンキャンパスを開催する日曜日、すでに梅雨入りしているはずなのに良い天気。というか良い天気過ぎて気温はどんどん上昇。熱中症に警戒が必要、というレベルになってしまいした。

Img_4331

ということで本学オリジナルの水のペットボオルと団扇をセットにした熱中症対策コーナーも。こんな天気でも来場してくださった皆さんには感謝です。

続きを読む "オープンキャンパスを実施しました。(江頭教授)"続きを読む

2023.06.16

今年度最初のオープンキャンパスを日曜日に実施します(江頭教授)

|

 以前にも告知した「今年度最初のオープンキャンパス」の開催、いよいよ明後日の日曜日となりました。

 今年度の本学八王子キャンパスのオープンキャンパスは昨年度と違って「定員制」という制限はなくなりました。とはいえ予約、おっと定員がないから申込ですね、申込が必要となります。本記事を見てピンと来た人、気になった人のためにまずは申込先のリンクを置いておきましょう。

■6月オープンキャンパス紹介WEB(画面をクリックしてください)

Kv_oc2306_l_01

■オープンキャンパス申込フォーム

https://www.teu.ac.jp/entrance/open/reception/index.html

 

 さて、具体的な内容についても説明しましょう。昨年度までは人数制限付きの予約制で会場内の行動も一定のルートに従って2時間半のコースを体験してもらっていたのですが、今回は(申込制ではありますが)その制限をなくしてより自由に見学していただけることとなりました。

 昨年までは、本学の学生さんと見学者の方との間で話が弾んで、なんて場面で時間制限が、という残念なこともありましたが今年は大丈夫。まあ、コロナ禍以前に戻っただけ、という言い方もできますが、それでも少し嬉しいですね。

 また、今年度最初の、ということで今年度初の入試説明会が開催されます。今回のオープンキャンパスの目玉の一つと言えるでしょう。

Photo_20230602095001

 これは全学共通ですね。

 続いて、工学部の学部全体の説明についてのご紹介。学部長から工学部の概要について。そしてコーオプ教育については実際にコーオプ実習で企業での就業体験を経験した学生さんの体験談を含めて紹介しましょう。

 そして我々応用化学科の内容。まずは高校生諸君に化学の実験を体験してもらうための準備をしています。やっぱり化学の醍醐味は実験ですからね。

Photo_20230602095201

 そして応用化学科の研究室の見学もOK。実際に研究を行っている場所を見ることができる、というのも貴重な機会です(それも複数の研究室を見比べることができる)のでご期待ください。

 最後にもう一つ。「面白そうだけどその日は…」というそこのあなたへ。本学ではすでにバーチャルオープンキャンパスを6月1日(木)からスタートしています。オンデマンド動画で学長による大学紹介や学部・学科説明などがご視聴になれます。18日(日)までの期間限定ですのでお見逃しなく。

 

江頭 靖幸

 

2023.06.15

化学薬品と爆発(江頭教授)

|

 白衣を着たおじさんがフラスコに入った薬品に試験管で何かを加えると…ドッカーン!煙が晴れると顔に煤が付いて髪の毛がボサボサに。映画などに出てくるステレオタイプの化学薬品の爆発のイメージは微笑ましいものですが、実際の爆発はしゃれにならないものも多い。

 そんな、化学薬品の爆発には古い歴史があるのですが、今回は「オッパウ大爆発」について紹介したいと思います。

 この「オッパウ大爆発」は1921年、ドイツで起こった事件で、これについて私が知ったのはオーストラリアの乾燥地での植林実験を行っていた際、森林総合研究所所属(当時)の田内裕之さんに教えてもらったときでした。

 私たちは乾燥地の乾いて硬くなった土壌に水がしみ込みやすくするために爆薬を利用した土壌改良を行っていましたが、そこで利用していたのがANFO爆薬(Anmonium Nitrate Fuel Oil explosive)でした。このANFO爆薬は安全性が高く、取扱も比較的容易だ、ということで 10kgの袋入りのANFO爆薬を担いで運んだりしたものです。

 もちろん、手順通りにANFO爆薬にbooster(起爆用の爆薬)をセットして通電すれば大きな爆発を起こすことができます。(爆発の様子はこちら)

 

続きを読む "化学薬品と爆発(江頭教授)"続きを読む

2023.06.14

logの底はいくつですか?(江頭教授)

|

 私が受け持っている化学工学についての授業でのことです。今の高校の教科書に合わせて授業では自然対数を log(x) と書いていたのですが、テストでは自然対数と常用対数を間違える人が続出する結果に。

 学生諸君に話を聞いてみると「関数電卓でLOGのボタンを使って計算した」とのこと。でも一般的な関数電卓ではLOGは常用対数なのです。教科書の記述に合わせて授業を行っていると、世の中の常識と食い違ってしまうのです。

 「えっ!自然対数は底を省略して log(x) と書くのが当たり前では?」と思った人、あなたは若い!今の高校の授業では自然対数を log(x) と書くのですが、昔は常用対数(底が10の対数のこと、つまり log10(x) )を log(x) と書いていたのです。要するに「 log 」という記号が表す関数は昔は10が底の常用対数、いまはeが底の自然対数へと、いつの間にか変更されてしまったのですね。

 では「log」に入れ替わられる前の自然対数はどう書かれていたか。これはln(x)と書かれていて、関数電卓ではLNのボタンに対応するのです。

 教科書を使っているひとは毎年入れ替わりますが、関数電卓を使っているひとは入れ替わることはありません。メーカーが「さあ、今年からLOGは自然対数だよ」と言ったとしたらクレームの嵐になるでしょう。ですから(普通の関数電卓では)LNのボタンはそのまま自然対数に割り当てられているのです。

8

続きを読む "logの底はいくつですか?(江頭教授)"続きを読む

2023.06.13

温暖化についての「すぐ使える図表集」(江頭教授)

|

 地球温暖化について人に話をする場合、とても便利なサイトを紹介しましょう。「全国地球温暖化防止活動推進センター」JCCCAのサイト、特に「すぐ使える図表集」のコーナーです。

 地球温暖化問題に関連した興味深いデータがずらりと並んでいて、洗練されたグラフやチャートになっています。各図表は簡単なアンケートに答えればダウンロードが可能。商用利用はできないそうですが、出所を明記すれば自由に利用できます。

 私自身、環境に関する授業のなかでこのサイトにはお世話になってきました。ありがたいのは新しいデータが発表されるたびにこのサイトの図表も更新されることです。その意味で特に興味深いのは「世界の二酸化炭素排出量に占める主要国の排出割合と各国の一人当たりの排出量の比較」です。

Photo_20230612175801

 

続きを読む "温暖化についての「すぐ使える図表集」(江頭教授)"続きを読む

2023.06.12

実験室ライフハック「スターラー Tips その2 解決編」(江頭教授)

|

 前回に続き、化学実験で用いるスターラーのお話です。大きなビーカーのために大きな攪拌子(スターラーチップ)を用意したがすぐ「あばれて」しまい使い物にならない、という問題の、今回は解決編です。

 まず、一つの解決方法としてスターラーチップとスターラー本体の距離を離す、という方法があります。簡単なモデル計算によれば本体の磁石のS極とN極との距離と同じ程度のスターラーチップを離せば安定に回転できるようです。

 でも、ここでは別の工夫で「あばれ」ない大きなスターラーチップを作ってみました。

 どうでしょう。これぐらい攪拌できれば充分ではないでしょうか。

 さて、このスターラーチップ、どのようにして問題を解決したのでしょうか。次の写真をみていただけれ一目瞭然かと思います。

 

続きを読む "実験室ライフハック「スターラー Tips その2 解決編」(江頭教授)"続きを読む

2023.06.09

実験室ライフハック「スターラー Tips その1 問題編」(江頭教授)

|

 今回は実験室でのちょっとした工夫をご紹介。前半は問題の説明です。

 化学の実験で用いられるスターラー、ご存じの方もいるかもしれませんが、ビーカーの中身をかき混ぜるための道具です。本体には磁石とモーターが入っていて、本体の上にのせたビーカーに、磁石をテフロン樹脂でコートしたスターラーチップ(攪拌子)を入れます。本体の磁石が回転すると磁石にくっついたスターラーチップも一緒に回転し、ビーカーの中を攪拌できる、という仕組みです。

 普通に使う100mLや300mLのビーカーで使うには何の問題もありませんが、大きなビーカー、たとえば2Lのビーカーで使うと、ビーカーの周辺部を良くかき混ぜられない、という問題が。そこで大きなスターラーチップを買ってみたのですが、以下のようにあまり回転速度を上げられません。

回転が速くなるとスターラー本体の磁石とスターラーチップの磁石との結合が外れて、よく「スターラーチップがあばれる」と呼ばれる状態になってしまいます。

続きを読む "実験室ライフハック「スターラー Tips その1 問題編」(江頭教授)"続きを読む

2023.06.08

(推薦図書)中西 準子著「環境リスク学―不安の海の羅針盤」日本評論社(江頭教授)

|

中西 準子著「環境リスク学―不安の海の羅針盤」日本評論社

 日本のリスク研究の先駆者、中西準子氏の講演やインタビュー、論説を集めた本です。中西氏は、下水処理の問題を起点に環境問題に科学に基づいた現実的な解決・対応を真摯に探求し続けた研究者であり、環境と安全の問題に科学者の立場から積極的に発言をしていた方です。私も氏のホームページ(後にブログに移行)を定期的にチェックしていたものです。

 この本は、専門家向けではなく、一般の人たちに向けた本で「リスク」の本質がわかりやすく説明されています。

 と、以前は思っていたのですが…。

 いえいえ、別にこの本の内容が間違っている、という訳ではないのですよ。

 たまたま、この本を工学系でない学生諸君と一緒に読む機会があったのですが、私の予想に反して、思ったほどには、本書の内容に納得してもらえなかったのです。

51ypp70v28l

 

続きを読む "(推薦図書)中西 準子著「環境リスク学―不安の海の羅針盤」日本評論社(江頭教授)"続きを読む

2023.06.07

「Cal」と「kcal」(江頭教授)

|

 先日、「食べ物の「カロリー」が気になる?」と題して食べ物の持っている熱量・エネルギーの単位が未だにkcal(キロカロリー)でありSIであるJ(ジュール)が用いられていないことに苦言(と言うほどでもないですが)を述べたのですが、そのときふと思い出したのが表題の「Cal」のこと。

 えっ、カロリーのことでしょう?と思うかも知れませんが、最初の「C」が大文字になっていることに実は意味があるのです。

むぅ、それはまさか大カロリー!!

「知っているのか雷電」とか言いたくなるのですが、実は普通のカロリー(cal)の1000倍を最初の「C」を大文字にして表現し、普通に「カロリー」と呼ぶ、という習慣が、栄養学の分野ではあったというのです。私は工学系なので「そう言う風習があるので気をつけましょう」と教えられただけなので、本当のところはよく分からないのですが、言われてみれば栄養学関係の熱量あるいはエネルギーの単位でカロリー(cal)
を使うことはほとんどありません。事実上、その1000倍のキロカロリー(kcal)しか使わないのですから「キロ」を略してカロリーと言いたい気持ちも理解できますね。

 いっそ「キロカロリー」を略して「キロ」にしてしまったらどうでしょう。まあ、これは「キロメートル」や「キログラム」で私達は普通にやっていることですから、文章に残す場合はともかく、会話の中ではTPOによってはありそうなことですよね。

Photo_20230607070701

続きを読む "「Cal」と「kcal」(江頭教授)"続きを読む

2023.06.06

サステイナブル工学基礎 学内施設見学(2023年度)(江頭教授)

|

 本学の工学部が掲げる「サステイナブル工学」、その最初の授業として本学2年生が履修している授業が「サステイナブル工学基礎」です。本年四月からは2022年度入学の第8期生が受講を始め、第8回目の講義が行われています。

 この「サステイナブル工学基礎」で行われるのが学内施設の見学。工学部三学科が代わる代わる学内のサステイナブル工学に関係の深い施設を見学します。6月5日には我々応用化学科の見学が行われました。この見学、コロナ禍の影響で2020年、21年と中止され、昨年22年に再開されました。ですから、授業は8回目ですが見学会は6回目となります。

 見学は、まず「スマートハウス実習棟」という専門学校の施設からスタート。太陽電池が乗っている建物です。太陽電池パネルで電力すること、建物の断熱性を高めて冷暖房の必要エネルギーを削減すること、地中にたまった熱を熱源として用いることで消費エネルギー以上の暖房効果を実現すること、などいろいろな家庭向けエネルギー関連技術の設備があり、その運用や施工方法を学ぶ場所となっています。

Img_4311

続きを読む "サステイナブル工学基礎 学内施設見学(2023年度)(江頭教授)"続きを読む

2023.06.05

石英管のジンクス(江頭教授)

|

 石英管は、正確には透明石英ガラス管ですが、純度の高い酸化ケイ素でできたガラス管です。通常のガラス管は不純物を多く含む、というか混合物なので融点が下がる(正確には軟化点ですが)ので比較的加工がし易く、ガラス細工でいろいろな形のものを作ることができます。


 融点が低いことはガラス管のメリットですが、高温で実験をしたいとき、せいぜい400℃までしか保たないガラス管では力不足な局面がままあります。そうなると石英管の出番。1000℃程度の温度でも普通に使用することができます。


 ただ、石英管の難点は加工精度が低いことと、それによるシーリングの難しさです。例えば直径10ミリと指定しても、±0.5ミリ程度の誤差があるのは普通のことです。Oリングなどをつかって”締める”タイプのシーリングには不向きなことが分かると思います。


 結局、通常のガラスジョイントなどを石英管と接合して反応器を作成することになりますが、これを自分でやるのは敷居が高い。専門の業者さんに発注すると今度はお値段が高いのです。


 さて、ここまで前置きをして、今回のお題、ジンクスのお話しです。これは私が学生時代のお話し、周りの先輩達から聞いた噂話です。


 新しい装置を作り、石英反応管(ジョイントを接合した石英ガラス管)、も納品されました、さあ実験だ!


 ジンクスその1) 高価な石英反応管を使った装置では、最初の実験で石英反応管が割れる


 やはり石英管が高温には強いですが機械的にはもろくて壊れやすい。このままでは先が思いやられる、ということで石英反応管の修理を依頼すると同時にもう一個、予備の石英反応管も発注します。


 今か今かと待ち望み、ついに石英反応管が2本納品されます。今度は石英反応管が壊れても大丈夫。予備の石英反応管を使っている間に修理ができる。もう時間を無駄にはしないぞ!


 ジンクスその2) 予備の石英反応管がある場合、実験で石英反応管が割れることはない


Photo

続きを読む "石英管のジンクス(江頭教授)"続きを読む

2023.06.02

6月18日(日)に最初のオープンキャンパスを実施します(江頭教授)

|

 いや、前にも「最初のオープンキャンパス」をやるって書いてましたよね。

 確かに。でもあれ(3月26日)は「今年最初のオープンキャンパス」でした。今回ご紹介する6月18日(日)のオープンキャンパスは「今年度最初のオープンキャンパス」となります。とはいえ、どちらも対象は2024年入学の皆さんです。おっと、2024年度以降に入学予定の高校2年生、1年生の皆さんも是非ご参加を。

 さて「今年度」のオープンキャンパスは昨年度までと違っています。今年の来場型オープンキャンパスでは入試説明会や応用化学科の体験実験・研究室見学を申込制、入退場自由で行います。どこが違うかですか?

 昨年度までは人数制限付きの予約制で会場内の行動も一定のルートに従って2時間半のコースを体験してもらっていたのです。今回は(申込制ではありますが)その制限をなくしてより自由に見学していただけることとなりました。

 昨年までは、本学の学生さんと見学者の方との間で話が弾んで、なんて場面で時間制限が、というの残念なこともありましたが今年は大丈夫。まあ、コロナ禍以前に戻っただけ、という言い方もできますが、それでも少し嬉しいですね。

 さて、工学部全体の流れを説明しましょう。今年度最初の、ということでここで今年度初の入試説明会が開催されます。

Photo_20230602095001

 これは全学共通ですね。引き続き、工学部の説明、その後各学科に分かれる、という構成となります。

 学部全体の説明では学部長から工学部の概要について。そしてコーオプ教育については実際にコーオプ実習で企業での就業体験を経験した学生さんの体験談を含めて紹介しましょう。

 応用化学科では、まずは高校生諸君に化学の実験を体験してもらうための準備をしています。やっぱり化学の醍醐味は実験ですからね。

Photo_20230602095201

 そして応用化学科の研究室の見学もOK。実際に研究を行っている場所を見ることができる、というのも貴重な機会です(それも複数の研究室を見比べることができる)のでご期待ください。

 最後にもう一つ。「面白そうだけどその日は…」というそこのあなたへ。本学ではすでにバーチャルオープンキャンパスを6月1日(木)からスタートしています。オンデマンド動画で学長による大学紹介や学部・学科説明などがご視聴になれます。18日(日)までの期間限定ですのでお見逃しなく。

 詳細内容および申込は下記よりご確認ください。

■6月オープンキャンパス紹介WEB(画面をクリックしてください)

Kv_oc2306_l_01

■オープンキャンパス申込フォーム

https://www.teu.ac.jp/entrance/open/reception/index.html

 

では6月18日、東京工科大学八王子キャンパスでお待ちしています。

 

江頭 靖幸

 

2023.06.01

日本の温室効果ガスの排出量(2021年度版)(江頭教授)

|

 最大の環境問題である地球温暖化、その原因物質である二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスはだれがどのくらい出しているのでしょうか。温室効果ガス削減のための基本的な指標となるこのデータ、日本国内での発生量については温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)がとりまとめて毎年発表しています。

 という書き出しで日本の温室効果ガス排出量について紹介する記事も実は8回目。昨年がこちらの日本の温室効果ガスの排出量(2020年度版) ですが、2019年度版2018年度版2017年度版2016年度版2015年度版2014年度版と続きます。

 2014年からスタートしたなら今年は10回目では。おっと、よく見てください。今年のタイトルは2021年度版となっています。実はデータの発表には少しタイムラグがあり、一昨年度のデータを昨年度のうちに整理して今年度発表する、というながれになっています。

 さて、今回の結果は

2021年度の我が国の温室効果ガス総排出量︓11億7,000万トン(CO2換算)

前年度の総排出量(11億5,000万トン)と比べて、2.0%(2,000万トン)の増加

となっています。これは驚きのデータ。なんと2013年から連続7年減少していた温室効果ガスの排出量が久方ぶり増加に転じているのです。

 この理由、皆さんお気づきのことと思いますが「新型コロナウイルス感染症に起因する経済停滞からの回復により、エネルギー消費量が増加したこと等が主な要因と考えらえる。」とされていて、それはまあそうだろうと。

 実際、2013年度から2019年度までの減少率は1.2~3.9%(平均2.5%)であり、2020年度の前年比5.1%減というのがかなりの異常値だったのです。以下のグラフを見ても2021年度のデータは2013年度から2019年度までのラインの延長上にあって、2020年度だけが下がっているように見えるのではないでしょうか。

Photo_20230601064501

続きを読む "日本の温室効果ガスの排出量(2021年度版)(江頭教授)"続きを読む

« 2023年5月 | トップページ | 2023年7月 »