logの底はいくつですか?(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
私が受け持っている化学工学についての授業でのことです。今の高校の教科書に合わせて授業では自然対数を log(x) と書いていたのですが、テストでは自然対数と常用対数を間違える人が続出する結果に。
学生諸君に話を聞いてみると「関数電卓でLOGのボタンを使って計算した」とのこと。でも一般的な関数電卓ではLOGは常用対数なのです。教科書の記述に合わせて授業を行っていると、世の中の常識と食い違ってしまうのです。
「えっ!自然対数は底を省略して log(x) と書くのが当たり前では?」と思った人、あなたは若い!今の高校の授業では自然対数を log(x) と書くのですが、昔は常用対数(底が10の対数のこと、つまり log10(x) )を log(x) と書いていたのです。要するに「 log 」という記号が表す関数は昔は10が底の常用対数、いまはeが底の自然対数へと、いつの間にか変更されてしまったのですね。
では「log」に入れ替わられる前の自然対数はどう書かれていたか。これはln(x)と書かれていて、関数電卓ではLNのボタンに対応するのです。
教科書を使っているひとは毎年入れ替わりますが、関数電卓を使っているひとは入れ替わることはありません。メーカーが「さあ、今年からLOGは自然対数だよ」と言ったとしたらクレームの嵐になるでしょう。ですから(普通の関数電卓では)LNのボタンはそのまま自然対数に割り当てられているのです。
さて、なぜこのような面倒な状況が生まれたのでしょうか。
高校の教科書は教育指導要領にしたがって作成されます。昭和35年10月施行の高等学校学習指導要領では常用対数を教えることが明記されていますが、昭和45年のもの(施行は昭和48年4月)からは常用対数に関する記載はなくなっています。ただ、学習指導要領には「 log 」を自然対数とする、という記述は見られません。いつの頃からか、常用対数を教えないなら底を省略した「 log 」は自然対数であるほうが自然だ、ということになったのでしょう。
自然対数の底 e (ネイピア数)は円周率などと並ぶ普遍的な定数です。「 ex は微分を繰り返しても同じ ex 」というところなど e が特別な数字であること印象づけるものであり、対数関数の微分積分を教えるなら自然対数を教えないことはあり得ません。それに対して常用対数は教える必要はない、と判断されたのでしょうか。
でも自然科学の分野でも常用対数が使われているところもありますね。
はい、そのとおり。化学の分野で使れているpHの定義に表れているのは常用対数ですよね。
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