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推薦図書 I.プリゴジーヌ R.デフェイ 著, 妹尾 学 訳「化学熱力学1,2」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 今回の推薦図書は

I.プリゴジーヌ R.デフェイ 著, 妹尾 学 訳「化学熱力学1」「化学熱力学 2」みすず書房 (1966/10/21)

という化学熱力学の教科書です。

 手元にある本書に書き込んであるメモだと私は1989年の9月にこの本を購入し半月ほどかけて読んでいます。毎朝早くに起きて朝食前の時間をつかって読み進めたことを今でも覚えています。

 別に教科書として指定された訳ではないのです。そのころ私は博士課程の学生だったのですが、どうも「化学熱力学」が分からない、そう感じてもう一度勉強しようと思って本書を個人的に勉強した、という次第です。

 その際に強く印象に残ったのは化学反応において、化学親和力(この教科書では「親和力」とだけ記されています)と反応速度の積がエントロピーの生成速度と等しくなる、つまり化学親和力と反応速度の積は常に正になるという De Donder の不等式についての解説でした。

 この不等式自体の導出は熱力学の第二法則といくつかの定義、そして式変形の結果でしかありません。でも積が常に正だ、ということは二つの値はどちらもプラス、あるいはどちらもマイナスだ、と言うことを意味しています。だとしたら、どちらかが原因でどちらかが結果だ、ということにならないでしょうか?この不等式は「化学親和力によって反応が起こる」ということの証明なのだ、と解釈できるのです。

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 実はこの考え方は著者のプリゴジーヌ博士の業績である不可逆過程の熱力学や散逸構造といった理論の根底にある考え方に通じているのです。私にとっては、教科書レベルの内容が(当時の)最先端の研究と地続きになっていることがはっきりと理解できた瞬間でした。

 教科書はなるべく薄くて簡単なものが良い、と思いがちですが、本書のような本格的な教科書を腰を落ち着けて読んでみるというのも深い理解につながると思います。多少時間がかかっても得られるものが大きければ結果としての「コスパ」は良いのでないでしょうか。

 なお、本書の出版年は1966年。もう半世紀以上も前に出版された本という事になりますが原著はもっと古くて1944年の出版です。ほぼ80年前の内容ということですね。その間、化学熱力学も進歩したわけですが、根底から覆った訳ではないのですから教科書として現在でも通用する内容だと思います。

 

江頭 靖幸

 

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