「熱の仕事当量」の値(江頭教授)
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熱はエネルギーの一つの形態である、ということはエネルギー保存則の説明で皆さんご存じのことかと思います。でも他の機械的なエネルギーの変換、たとえば振り子などの運動エネルギーと位置エネルギーと比べると熱と仕事との変換は何か特別な気がします。日常生活では熱は熱だけで保存しているように見えるのに、そこで敢えて
つまり、熱は仕事と交換可能だったんだよ!!
な、なんだってー!?
となるところがエネルギー保存則の醍醐味(?)ですよね。
さて、熱と仕事が交換可能だ、つまり「エネルギー」という実体の別の表出なのだ、という説明でよく出てくるのが「ジュールの実験」です。おもりの位置エネルギーを使って摩擦熱を発生させ、その熱量から仕事と熱の交換比率を決める実験。この「仕事と熱の交換比率」のことを熱の仕事当量と呼んでいる訳です。その値は「4.2」とか「4.19」と私は覚えています。
とまあ、ここまでは皆さんご存じのお話。この 「ジュールの実験」を実際にやってみるとどんなことになるのでしょうか。
たとえばおもりを1kgとします。移動させる高さはまあ1mでしょうか。重量加速度を簡単のために約10m/s2とすると位置エネルギーは10Jです。これって 2.4cal ぐらい。滑車でつながれた羽根つきの水槽の体積は、そうですね頑張って小さく作っても100mL程度でしょう。そうなると1回のおもりの下降での温度上昇は 0.024℃ でしかないのです。こんな精度で温度変化を測るのは結構大変ですよね。
逆に考えて水槽の100mLの水の温度を1℃温度上昇させるためには100cal、つまり420Jが必要となります。おもりを42回下降させることに相当していて、これは結構大変な仕事、というか労働なのでは…。
人間の感覚では熱の仕事当量が意外と「大きい」ということは人間が「仕事」をすることで「加熱」する、ということが非効率だ、ということを意味しています。
もし熱の仕事当量が非常に小さな値、例えば現実の1000分の1の4.2J/kcalだったらどうなったのでしょうか?
1kgのものを1m上下させるための仕事で、たとえば100gの水なら24℃温度を上げることができます。あるいは1Lの水なら2.4℃の温度上昇。つまり1Lの水のペットボトルを上下50cmでシェイクすれば40回程度で沸騰させることができるのです。
「熱々の料理が冷えないように時々かき混ぜなくては」とか「ぬるくなるのでアイスコーヒーをストローで飲んじゃだめ」など、私達の生活体験も色々変化していたはずです。
そもそも調理のために燃料は必要ないのでは?「煮炊き」じゃなくて「混ぜ叩き」とか。なら調理はそれなりの力仕事にはなるでしょうから筋力のある男の仕事に。桃太郎も「おじいさんは山に柴刈りに」ではなくて「おじいさんは家で料理を」となっていたでしょう。(あっ、それでも物語に支障はないですね。)