測定精度は何桁まで達成できるか(江頭教授)
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学生さんの「化学の長い歴史を考えれば100桁精度の実験も可能になっているべきだ」という言葉(愚痴?)に触発されて以前に書いた、「化学実験で測定精度は何桁必要か」という記事。ここでは宇宙の全重量に対する水素原子1個分の誤差でさえも87桁で表現できる。つまり化学実験で「100桁」とうのはどう考えてもオーバースペックだ、ということを示しました。
今回はその第2弾。前回は羽目を外しすぎのきらいがあったので、少し真面目に「実験精度はどのくらいの桁数が達成できるのだろうか」という問題について考えてみましょう。
いろいろな測定例があるでしょうが、比較的多くの人が感心を持ち、複数のグループが測定精度の限界に挑んでいる、といえば物理や化学で使われる定数の測定ではないでしょうか。
米国のNIST ( National Institute of Standards and Technology ) のWebサイトにある The NIST reference on Constants, Units & Uncertainty のページにはこの様な定数の測定結果がまとめられています。
たとえばアボガドロ数の値は
6.02214076 x 1023 mol-1
です。その精度は...100桁?いえいえ、なんと無限なのです!
少し説明が必要ですね。従来アボガドロ数は「12C 12g(SIなら0.012kg)の中に含まれる原子の数」と定義されていました。この定義をよく見ると「12g」という精度無限の定数が入っていますよね。
だったら、この「12g」の代わりにアボガドロ数の方を精度無限の定数として定義することができるでしょう。その結果「12g」の方は定数では無くなるので測定が必要になります。でも測定の精度が向上するたびにアボガドロ数が変わる、というよりは「アボガドロ数個の12C の質量」が変わる方がましだろう。ということでアボガドロ数の定義が変更されて正確に6.02214076 x 1023 mol-1 となっているのです。
では測定が必要になった「12g」つまりの方は定数では無くなるので測定が必要となった「 12C のモル質量」はどのくらいの精度で測定されているのでしょうか。
NISTのサイトで調べると
11.999 999 9958 x 10-3 kg mol-1
という値で相対誤差は
3.0 x 10-10
だとか。約10桁の精度です。
100桁に比べると見劣りしますが、実際に実験をやったことがある人なら素直に「凄い!」と感じられる結果ではないでしょうか。
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