書評 ジェニファー・D・シュバ著「米国防総省・人口統計コンサルタントの 人類超長期予測」(江頭教授)
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今回は人口問題に関する書籍を紹介しましょう
書評 ジェニファー・D・シュバ著「米国防総省・人口統計コンサルタントの 人類超長期予測」
サブタイトルには「80億人の地球は、人口減少の未来に向かうのか」とも書かれています。
さて、本ブログでは以前にも人口に関する書籍をいろいろと扱ってきたのですが、先に「人口爆発が騒がれなくなったのは何故か?」という記事に示したように私はどうやら「人口爆発」は起きそうもない、という立場です。
貧しい状態(多産多死の状態)の社会ではたくさんの子供を産むことが必要(でないと次の世代がいなくなってしまう)ですが、社会が豊かになるとその必要性はなくなる。タイムラグはあるものの人々は敏感に反応して出生率が減少し、やがて新たな状態(少ない子供が必ず育つ)へと移行してゆく。
基本的にはこのように考えています。
さて、今回紹介する「人類超長期予測」にはいろいろなトピックスが紹介されているのですが、大きなポイントとして上述のプロセスが必ずしも予想通りに進行する訳ではない、という指摘が成されています。具体的にはサハラ以南のアフリカの諸国で、これらの国々では「子供が死なない程度の発展」はあったが「出生率が減少」するほどには豊かになっていないという状況にあることが指摘されています。結果、局所的な人口爆発(制御不能な人口増化)が起こっており、毎年増え続ける子供達が、そしてやがては毎年増え続ける就職年齢に達した若者達が社会にどんどん参入してくることになるのです。人手不足の日本からすれば夢の様な状況ではあるのですが、そんなに質の高い(要するに高給の)職を準備することができるのでしょうか。若者の失業率が高くなれば自ずから社会は不安定化し、それがまた出生率を高止まりさせる…。
このような記述をみると世界の将来について楽観視できない様に思えてきます。とはいえ、これは世界的に見てそいういうところがある、という指摘です。別に世界の趨勢を読み違えていた、という話ではないですよね。(もちろん、その土地に生きる人々にとっては深刻な問題なのですが。)
本書には国の人口構成とその脆弱性についての議論もあり、若者が多いほど社会が不安定化するといった議論もありました。(この辺の議論は日本での団塊の世代の動向と重なって見えますね。1960年頃、団塊世代が若者だったころがある意味で日本の危機の時代だったのかも知れません。)結局、世界の人口問題はスッキリと解決された訳ではなさそうだ。結局ここでも「世界は変化するけれど思ったほど良くはならないなあ」という感じることになりました。
なお、本書では世界の移民(人口の移動)の問題が取り上げられています。局所的な人口の増加は移民によって解消されるのでしょうか。そう思って読み進んだのですが、こちらについてはあまりはっきりとした結論が述べられていない様に感じました。
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