人口爆発が騒がれなくなったのは何故か?(江頭教授)
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先日の記事、「人口爆発から少子高齢化へ」では以前(私が子供だった頃なので50年位前です)には人口増加によって起こる問題が不安視されていたのに対して現在では人口の減少が問題視されているということを指摘したのですが、今回はその理由について考えてみましょう。人口爆発が騒がれなくなったのは何故か、ということですね。
いきなり結論から入りますが、その理由は簡単。どうやら「人口爆発」は起きそうもないことが明らかになったからです。
おっと、これはさすがに不正確な表現でした。まず「人口爆発」が何を意味しているかを整理すると、人口が増えることそれ自体を「爆発」とは言いませんよね。この「爆発」という表現は「制御不能」であることの例えであり、「人口爆発」とは人口が制御不能なほどのスピードでどんどん増えることを意味しています。もちろん、地球が養うことのできる人口には限界があるはずですからいつかはその限界を突破して「悲劇的な」方法で人口は強制的に減少させられることになるのです。世界の人口の推移、とくに50年前の1970年代ころまでのデータをみると世界の人口は指数関数的に、まさに爆発的に増えていて、この見方にも説得力を感じるというものです。
ところが、どうやらこの人口増化はそんなに続かないらしいことが分かってきました。
この辺の事情は以前にこちらの記事で紹介した
ハンス・ロスリング, オーラ・ロスリング, アンナ・ロスリング・ロンランド 著
上杉 周作, 関 美和 訳
FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣(日経BP 2019)
の中でも触れられています。
下図は世界の「女性ひとりあたりの子供の数」推移ですが、「この本でもっとも衝撃的なグラフと言ってもいい」と紹介されているものです。
昔の女性は子供をたくさん産まなくてはならなかった。その理由は全ての子供が育つ訳ではないから。つまり昔は「多産多死」の社会だったのです。それが産業革命を発端とした科学技術の進歩によって子供のほとんどが死なないで育つ社会に変化したのです。
子供がたくさん死ぬ社会も子供が死なずに育つ社会も、どちらの社会も安定、つまりサステイナブルではあります。産業革命以前は「多産多死」の「サステイナブル社会」だったものが産業革命後に「子供が死なずに育つ」もう一つの「サステイナブル社会」へと移行しようとしている。私の子供時代、「人口爆発」が騒がれていた時代、1970年代までの時代は、その移行期間の始まりの部分に相当していたのです。
科学技術の進歩によって子供は死なずに育つ、ということが人々の間で共通の認識になったとき、「女性ひとりあたりの子供の数」は急激に低下しました。これは新しい「サステイナブル社会」への移行期間の中期へと時代が進んだことを示しています。こうなれば多少のタイムラグがあったとしても世界の人口は安定に向かうでしょう。
この事実が多くの人に知られたことによって、世界人口の変化が制御不能な「人口爆発」によるカオスな社会への入口にあるのではないことが新たな常識となった、そして「人口爆発」という言葉も忘れ去れることとなったのだと思います。「日記 コラム つぶやき」カテゴリの記事
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