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2023年10月

2023.10.31

「Crtl-s」を押すと叱られるのですが(江頭教授)

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 Excelといえばマイクロソフト社の表計算ソフト。というか今や表計算ソフトの代名詞といっても良いくらいでしょうか。最近はそのオンライン版もかなりの完成度でアプリケーション版と同じ様に利用できるなあ、などと思っていたのですが、やはり違いはあるのですね。

 件のオンライン版の「Excel for the web」を使っていた時に出てきたのが以下のメッセージ。これは私が無意識に「Crtl-s」(コントロールキーとSキーを同時に)を押したから出てきたメッセージです。

 「Crtl-s」は「Save」つまり「保存」のショートカットキーです。私ぐらいの年齢の人間には、Excelに限らずソフトを使っているときにこの「保存」の動作を無意識にくり返す癖がついている人が多いのではないかと思います。(別に統計を取ったわけではないですが…。)

 昔のPCは頻繁にハングアップ(何かの不具合でキーボードやマウスからの操作を受け入れない状態になること)したものです。その状態から回復するにはいったん電源を落として再起動する以外にない。そして再起動すれば、最後に保存をした時点以降の作業内容が消えてしまうのです。

 いつハングアップするか分からない以上、こまめにデータをディスクに保存してせっかくの編集結果を保存しておかなくては。ということで、我々は無意識に「Crtl-s」を押すようになったのですね。

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2023.10.30

「あなたの研究はどのSDGsの目標に貢献しますか」(江頭教授)

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 東京工科大学には大学院が併設されていています。本学の学部から進学する人も、外部から入学する人もいて、大学と大学院は完全に繋がったものではありません。とはいえ「大学院の研究室」というものはなくて学部の学生も大学院の院生も同じ研究室で研究するのです。一体化しているとは言いませんが、強いつながりがあるというところでしょうか。

 さて、我々応用化学科の学生が大学院に進学する際、普通は「サステイナブル工学専攻」となります。「応用化学専攻」ではないのですね。「サステイナブル工学専攻」は「工学部」とは異なって学科ごとの運営ではありません。大学院の授業も工学部、じゃなかったサステイナブル工学専攻で共通となります。

 大学院で私が担当する授業は「サステイナブル工学概論」。「サステイナブル工学専攻」そのもの、というタイトルですね。まあ、学部のサステイナブル工学の授業から続いて担当するというところでしょうか。

 今回、この授業のなかで「SDGs」について触れてみました。ほとんどの院生諸君はSDGs自体は知っている様子で少し物足りないかも。学部生とは違って大学院生には「自分の研究」というものがありますから、ここでは「あなたの研究はどのSDGsの目標に貢献しますか」というレポートを書いてもらいました。

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2023.10.27

推薦図書「健康になる技術 大全」その3 (江頭教授)

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前回、そして前々回にも推薦図書として紹介した

林 英恵 著「健康になる技術 大全」(ダイヤモンド社,2023)

について。今回こそは最後にしましょう。最初の記事で「エビデンスとは何か」「科学的とはどういうことか」という第1章の紹介を、2番目の記事では習慣化によって意志の力を振り絞らなくても自分の行動を変えることができる、という考え方とその具体的なテクニックを記した第2、第3章について紹介させてもらいました。

 本書のイントロ部分「はじめに」のサブタイトルをさらにもう一度示しますが、

「真」の健康法を見極め、実行し、続ける技術

という文章の内、「「真」の健康法」の「「真」の」についての説明が第1章、第2章の内容は「実行し」で、第3章は「続ける技術」だ、と説明しました。だとすると今回は「健康法」の部分について、つまり本書のメインの部分の評となります。

 で、結論から言うと…。僕の思っていたのと違う、です。

 この本で悩んでいた健康問題が一気に解決、とは行きません。逆にいままで全く気にしていなかった問題を指摘されて、さあどうしよう、と新たな悩みができるような気すらします。

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2023.10.26

推薦図書「健康になる技術 大全」その2 (江頭教授)

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 前回、推薦図書として紹介した

林 英恵 著「健康になる技術 大全」(ダイヤモンド社,2023)

ですが、前回の記事では「エビデンスとは何か」「科学的とはどういうことか」という第1章の紹介をさせてもらいました。この部分だけでも充分に読む価値と思いますが、今回はその続きです。

 もう一度本書のイントロ部分「はじめに」のサブタイトル

「真」の健康法を見極め、実行し、続ける技術

を引用するのですが、「「真」の健康法」の「「真」の」についての説明が第1章だとすると本書の第2章の内容は「実行し」に、第3章は「続ける技術」だ、という話を今回はしたいと思います。

 第2章は「行動」で、そのまま実行についてのお話。この第2章の冒頭では「健康的な食生活、定期的な運動、健康的な体重、ほどほどの量のアルコール、たばこを吸わないこと」という健康によい5つの行動を守れている人がたった8%しかいない、というアメリカの事例が紹介されます。

 健康によい生活ができていない自分には何か問題があるのか。いえいえ、そもそも普通の人はなかなか健康に良い生活はできないのです、と指摘しているのです。

 そして、それは本人の意志の問題ではなくて(とまでは言っていませんが、意志だけの問題ではなくて)社会経済的な環境に大きな影響を受けているのだ、と事例を交えて紹介しているのです。例えば下の図は鉄道駅密度が低いほど(駅と駅との間隔が遠いほど)人は歩かなくなる、というデータを示しています。同じ様に運動をする意志を持っている人でも住んでいる場所の鉄道駅密度という環境によって実際の運動量に差がでるのですね。

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 さて環境に支配されている私達は、ではどのようにして健康に良い生活にシフトしてゆくのか。これが本書の問題設定になっているのですね。

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2023.10.25

推薦図書「健康になる技術 大全」(江頭教授)

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 ここ最近、推薦図書の「悩ましい」ネタが続いたのですが、今回は心置きなく推薦できる本のご紹介です。本のタイトルは

林 英恵 著「健康になる技術 大全」(ダイヤモンド社,2023)

で、私が読んだのはその電子版です。

 いや、タイトルをみたときは大きく出たなあ、大丈夫だろうかこの本、と思ったのですが内容は非常に堅実でした。この本のイントロ部分「はじめに」では

「真」の健康法を見極め、実行し、続ける技術

とあります。この「「真」の健康法」という部分、如何にも怪しい物言いなのですが、驚いたことにこの部分が実に堅実。ここで言う「「真」の健康法」というのは科学的に根拠のある(エビデンスに基づいた)健康法、という意味だったのです。「真」の、という形容に一番相応しいのはやはりエビデンスに基づいたものだ、それに異論のある人は少ないと思います。

 さらにこの本の良いところは「はじめに」に続く第1章を費やしてエビデンスとはなにか、について丁寧に説明してくれて居るのです。

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2023.10.24

ChatGPTは進化したか?(江頭教授)

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 例年、1年生向けの授業で「ハーバーボッシュ法」について触れ、ハーバーとボッシュのどちらが偉い(とあなたは考える)か、というレポートを書いてもらっているのですが、約1年前、この課題をchatGPTに解かせたらどうなるだろう、というトライをしてみたことがあります。最初はさんざんな結果だったのですが、あっという間に改善されたというのがこちらの記事。この対応の早さこそAIの一番恐ろしいところかもしれない、そう思う様になりました。

 さて、あれからしばらく経ってまた今年も1年に向けて同じ授業をする時期になりました。そこで、もう一度ChatGPTの現状を確かめてみることにしました。

 設問は前回同様、

N2とH2からNH3を合成するプロセス、ハーバー・ボッシュ法が実用化された経緯(歴史)について調べて簡単にまとめたのち 、ハーバーと ボッシュ、どちらの業績を評価するか(どちらが偉いか)、君自身の考えを述べよ。

というもの。今回の回答も歴史的経緯の記述は正確で、最初にあった「フレデリック・ハーバー」など謎人物は出てきません。そりゃあそうだよね。

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2023.10.23

「フード・アクション・ニッポン」がいつの間にか「ニッポンフードシフト」になっていた件(江頭教授)

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 「フード・アクション・ニッポン」は農林水産省の広報用のWEBサイトで、これについてこのブログで最初に書いたのがこちらの記事でした。「食料自給率を上げよう、と言いますが」というタイトルで、文字通り「食料自給率を上げよう」という「フード・アクション・ニッポン」の、延いては農林水産省の目標設定に対する疑問を書いたものです。

 食料自給率を上げる必要性は、要するに「世界的な食糧危機が起こったときのために平時から自給率を高めておかなくては」という主張でした。これ自体は耳に入りやすいのですが、よく考えてみると「世界的な食糧危機が起こる」という状況が今ひとつ想定できない。地球上のどこかで何かの作物が不作というのはあり得ても地球全体で全ての作物が不作というのは考え難いのではないか。だとしたら「世界的な食糧危機」は地球全体での物流の停止といったレベルの危機でしょう。そのときに自給率が高いことは望ましいことですが、それと平時の自給率に如何ほどの関係があるのだろうか。農作物の生産にはエネルギーが必要ですが、地球全体での物流の停止のような危機の状態でエネルギーの供給だけ安泰ということがあるのだろうか。もしエネルギー不足が起こったら平時と同じ食料生産はできず、せっかく高めた自給率も意味を成さないのでは、などなど疑問は尽きません。(実際ウクライナとロシアの戦争は食料危機であると同時にエネルギー危機でもありますよね。)

 とまあ、当初はこんな感じだった「フード・アクション・ニッポン」ですが、その次にこのブログで取り上げたのがこちらの記事。今度は「「フード・アクション・ニッポン」は迷走しているのでは?」というタイトルで、

以前、このサイトを取り上げたときは「食料自給率の向上」という目標には納得できない、(中略)と書きました。そのブログの影響でというわけではないのでしょうが、現在のフード・アクション・ニッポンの目標には「食料自給率の向上」が含まれていないのです。

という状態に。

 そして久々にこちらのサイトを覗こうとしたところ、何と「ニッポンフードシフト」に改名されていたのです。

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2023.10.20

メタンハイドレートの現在(江頭教授)

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 皆さんは今回のタイトルの「メタンハイドレート」という物質をご存じでしょうか。

 純水に化学の領域のお話をすれば「メタンハイドレート」は包接化合物の一種の俗称です。水の結晶、というか氷の結晶の中にメタンの分子が閉じ込められた形の物質。氷が溶けると同時にメタンガスが放出されるので、これに火がつけば以下の写真のように「燃える氷」となるのです。

 これだけでもう面白いのですが「メタンハイドレート」にはもう一つの魅力的な特徴があります。合成しなくても(もちろん合成することもできますが)自然界に、海の底に自然に存在している、それも日本の近海に大量に存在しているというのです。

 「燃える氷」を日本の近海の海底から掘り出せば、海外の石油や石炭に頼る必要はない。日本もついにエネルギー的な自立を達成できるのだ、という意味でも非常に注目された物質です。

 先日、大学院の学生さん向けのレポート課題で「日本のエネルギー的な自立」について問うたのですが、幾人方学生さんがこの「メタンハイドレート」について書いてくれました。それをみて、ふと思い出したという訳なのですが、逆に言うと最近あまり「メタンハイドレート」の話を聞かないような…。

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図は資源エネルギー庁の「石油・天然ガス政策について→メタンハイドレートの研究開発」というページの情報です。



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2023.10.19

2050年は近い将来か遠い未来か(江頭教授)

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 今回は前回の記事の続き。大学院の学生さんに「2050年、日本のエネルギー自立は成るか」と題して

2050年の時点で日本がエネルギー的に自立している可能性は何%くらいだと予想しますか?

というレポートを書いてもらった、その感想です。

 上記の課題、学生さん達の評価は仲々厳しいもので自立している可能性は概して低く予想されていました。0%という予想も一人や二人ではありません。それぞれいろいろな視点・論点からの予想を説明してくれたのですが、そのなかで印象的だったのが、少なくない人たちが

 日本のエネルギー的に自立は可能だが、2050年までと考えると時間的に難しい

と述べていたことです。

 えっ、2050年なんてずっと先に話じゃないの。

2050年というと私は88歳になっている計算ですから寿命が持つかどうか、半々といったところでしょう。そんな私は、どうやら無意識に2050年を遠い未来のことのように考えていたようです。でも20代前半の学生さん達にとって2050年は「自分達が働き盛りの時期」で現在とリアルに地続きな近い将来なのですね。

 とはいえ、60歳の私と20代の学生さん達の「約30年」という時間に対する感じ方の違いには他にも理由があるのではないかと思います。

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図は世界経済のネタ帳より

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2023.10.18

日本のエネルギー的な自立は達成できるか(江頭教授)

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 2023/10/18現在、「ハマスとイスラエル軍の武力衝突」と言うニュースが世界を駆け巡っています。事の起こりは10月7日のハマスによるイスラエルへの大規模攻撃なのですが、この日が「第4次中東戦争開始から50周年」だとの指摘もありました。私個人は「第4次中東戦争」という言葉は意識せざるを得ません。何故なら「第4次中東戦争」は日本に、というか世界に「石油ショック」を引き起こした切っ掛けなのですから。

 「石油ショック」ではトイレットペーパー騒動などが印象的ですが実際にはひどいインフレと不況の方が多くの人にとっては深刻な問題だったのだろうと思います。私自身はまだ子供で家計について心配する立場ではなかったので実感は薄かったのですが、世の中全体が何か暗い雰囲気に包まれていた気分は今でもよく覚えています。

 さて、そんな経験から私はエネルギー的な自立、つまり産油国などの意向に振り回されることなく自由にエネルギーを得られること、あるいは石油(や天然ガス)が輸入できなくても困らない国作りが大切だ、と思う様になりました。そこで本学の大学院、サステイナブル工学専攻の学生諸君に授業の課題として日本のエネルギー的な自立は達成できるかを問う課題を出してみたのです。

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2023.10.17

「「人口ゼロ」の資本論 持続不可能になった資本主義 (講談社+α新書)」という本を買ったのですが…(江頭教授)

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「うーん、これは悩ましい本が来ちゃったなぁ、などと思いつつ本日推薦するのはこの本」という書き出しで以前紹介したのは「食欲人」という本でしたが、今回の本も悩ましい。

 このブログのカテゴリーには「推薦図書」と「書評」とがあって、私は内容に応じて「推薦図書」にするかどうかを判断している。そこで「推薦図書」に入れるべきかどうかを悩んだのが「食欲人」だったのですが、今回の本はまた別の意味で悩ましいのです。

 まず、件の本は

大西広著 「「人口ゼロ」の資本論 持続不可能になった資本主義 (講談社+α新書)」 講談社 (2023)

という本。今回購入したのは電子版です。

 さて、私は「人類滅亡」とかが大好き、おっと、とても気になっているので「どのようなことが起これば人類が滅亡するのか」などと常に考えていて、授業で学生さんのレポートを書いてもらったりするぐらいです。

 この本の「人口ゼロ」というのもそれに類するお話しに違いない。日本ぐらいの大きさの国なら人口の減少は起こったとしても完全に「人口ゼロ」になるという事象は仲々考え難い。それなりに広い国土に分散して多くの人間が住んでいるのですから社会としての多様性も大きいはず。例えば東京で人口減少が続いたとしても沖縄では人口が増えるとか。中長期で考えれば人口が増えるカルチャーの方が優勢になるはずで、それを覆して予測可能な期間の内に日本人が全ていなくなるという驚異的な結論を導き出す新理論と一体どんなものなのでしょうか!?ワクワクドキドキでポチったわけですが…。

 まず序論から読み進めると、最初の図として「国立社会保障・人口問題研究所」の長期予測データが引用されているではありませんか。さらに文章中には「2080年頃まで見据え」て「現在の3分の2です。」と言っている。あのー、「人口ゼロ」はどこに行ったのでしょう?3分の2でも8千万人くらいいるので、さすがにゼロとは言えないのでは。

 結局のところ「人口ゼロ」というのは「釣りタイトル」だったのですね。ガッカリです。

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2023.10.16

応用化学科の同窓会と「スモークサーモンと海老のシーザーサラダロール」(江頭教授)

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 もう先々週のことになりますが10月7日の土曜日、応用化学科の同窓会を開催しました。

 昨年の同窓会は本学の学園祭である紅華祭に合わせて八王子キャンパスで実施したのですが、今回は紅華祭の前日、場所も新宿のレストランという新機軸。毎年恒例の開催というも良いのですが条件によって参加しやすい人やしにくい人がいるものですから、毎年いろいろ条件を変えるというも同窓会のようなイベントには必要なことでしょう。

 さて、当日は15:00スタート。時間ぎりぎりに会場にいくと懐かしい面々がすでに集まっていました。教授陣からの挨拶から歓談へ。そして卒業生諸君の近況報告などであっという間に時間が過ぎてゆきました。

 さて、近況報告のなかではこのブログの記事についても話題がでました。「クリスマスイブのお昼に「サーモンと海老のクリームチーズロール」を(江頭教授)」のこと。

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2023.10.13

専門家ならではの語り口(江頭教授)

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 ひどい話です。いえ、先日(2023年10月9日)に東北新幹線で起こった薬品漏れ事件のことです。乗客の一人が持ち込んだ荷物から何らかの薬品が漏れ出し、それに触れた人がやけどを負ったとのこと。

 さて、こんな事件が報道されるとこの「薬品」が何だったのか、というのが気になるところ。そこでこちらの放送局は専門家である東北医科薬科大学の薬学部長、吉村祐一教授の意見を紹介しています。教授の見解は

「報道であったいろいろな事象を見てみるといずれも濃硫酸で矛盾はない」

とのこと。要するに件の薬品が濃硫酸であると仮定すると報道から知り得た情報をいずれも矛盾なく説明できる、ということです。教授本人はかなりの確度でこの薬品が濃硫酸であると確信しているのだと思いますが、直接分析することもできず、ちゃんとした証拠もないのに断言はできない。そこでこのような「奥歯にものの挟まったような」物言いをすることになるのです。

 とまあ、このように書くと私がこの先生を非難している様にみえるかも知れません。しかし、現実問題として専門家として責任をもって話せる内容はここまで。逆にリップサービスをしたい欲求に負けて「この薬品は硫酸に決まっている」などとズバッと言い切らなかったことは評価に値すると私は思います。

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2023.10.12

西暦2070年は令和52年だろうか(江頭教授)

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 日本の少子化とそれに伴う人口減少についての議論の元になる人口の予測については国立社会保障・人口問題研究所が公開している「将来推計人口・世帯数」が議論のベースとなる資料だと言えるでしょう。人口やその年齢構成をは比較的予測がし易い統計数値です。今年10歳の人は10年後には20歳になっている、という例外のない法則があるわけで死亡と誕生以外に間違いが入る余地がない。誕生についての出生率の見積による誤差はありますが、逆に言えばそれくらいしか外れる余地がない訳です。

 では早速「日本の将来推計人口(令和5年推計) 」という資料で令和3(2021)年~令和52(2070)年の人口推移の予測をみてみましょう。

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まず、予測がし易いなどと言ってもやはり未来のことは不確かで、推計値は「出生高位」「中位」「低位」の三つの仮定に基づいて計算されています。2070年の日本の総人口は出生が高位の予測では9550万人、中位の予測では8700万人、低位では8000万人と予測されています(いずれも死亡は中位の推定)。2020年の人口が1億2600万人ですから約3000万人から4600万人の人口減少が起こるという予想。「大変だ!何てこった、これじゃあ日本は人口ゼロの国になってしまうじゃないか!」

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2023.10.11

そして誰もいなくなった…少子化の行方(江頭教授)

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 少子化が問題だ、というお話は随分まえから出ていて1.57ショックといわれた1989年の合計特殊出生率が今では高いと思える有様。日本の人口も2008年から減少に転じています。もっとも、もし人口が増え続けていたらと考えれば少子化と人口減少の方がずっとマシな問題の様に私には思えるのですが、それはさておき、この問題が将来的にどうなって行くのかを考えてみたいと思います。

 具体的に考える前に、まずは少子化と人口減少の何が問題なのかを考えましょう。これにはいろいろな具体例が挙げられるでしょうが、全体として言えるのは「いままで通りのやり方が通じなくなる」ことだと言えるのではないでしょうか。人口が減る社会では「昨年と同じだけ製品を作ると必ず売れ残る」ことになります。新しい宣伝を工夫し、新製品や新分野を開拓し、企業はいろいろに努力しますが、その一部は残念ながら市場から退出することにもなるでしょう。

 このように「いままで通りのやり方が通じなくなる」ことによって毎年少しずつでも変化を続ける世の中は次第に現在の社会とは異なるものへと変化してゆくと思われます。では、その変化が社会のどこかの仕組みに及んだとき、少子化というものは止まるのだ、とは考えられないでしょうか。

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2023.10.10

「保護者会」が開催されました(江頭教授)

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 先週の10月8日と9日に紅華祭(学園祭)が行われたことは既に紹介しました。実は紅華祭と並行して行われる本学のイベントがあります。春と秋に実施している保護者懇談会の内、秋に実施する懇談会が実は紅華祭と同時に行われているのです。紅華祭に合わせて多くの方が本学のキャンパスを訪れるのですが、その中には保護者懇談会に参加する方もいた、ということですね。

 大学生なのに「保護者懇談会」とは如何なものか。私も最初はそんな風に思ったものです。大学生にもなれば一人前、いちいち親がでてくるなんて、と学生の頃の私なら思ったところでしょう。でも今大学の教員になって大人数の学生諸君と接して思うのは、多くの若者が経験する初めての社会生活である大学生活というものにはリスクが付きものだということ。その場合は学生本人の周りの人たちが協力して対応するべきで、そのためのも大学と保護者にはつながりが必要ですよね。

 (とは言え「保護者」って言葉はどうでしょうか。私の感覚だと「ステイクホルダー」が一番近いのですが敢えて日本語いすれば「家族」でしょうか。これは、学生本人から見るとちょっとイヤかも。「家族」懇談会となるとたくさん人が来てしまいそうだし。良い言葉が見つかりません。)

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2023.10.09

紅華祭が開催されています(江頭教授)

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 以前の記事でも紹介した通り、昨日10月9日と本日10日、東京工科大学の学園祭、紅華祭が開催されています。初日の8日は曇り空でぎりぎり雨が降るか降らないか程度でした。イベントには不向きな天気となっていまいましたが、台風やコロナにたたられた今までに比べればまだ恵まれていると言うべきでしょうか。

 さて、その第1日の昼前に撮ったのがこちらの写真。少々寂しく見えるのは始まったばかりの時間帯であるということと、写真のアングルのせいでしょうか。我々応用化学科が所属する片柳研究棟から坂の上の研究棟を見上げるアングル。坂の上の広場にステージがあってこの写真ではちょうど真裏が写っている位置関係になります。

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 さて、普段の日曜日、本学のキャンパスは特に閉鎖されているわけではありませんが、人が来ることを想定していない状態になっています。具体的に言えばスクールバスが運行していません。でも、学園祭となればメインの交通手段はスクールバスに。当然、昨日も、そして休日の今日もスクールバスは運行しています。これ、普段通りではなく、少し変則的な運行です。

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2023.10.06

2005年のCO2排出量

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 昨日の記事では現在(とってもデータ取りまとめの都合で2020年時点での)世界での二酸化炭素排出量についてみました。

 中国や日本、ドイツなど先進国でも一人当たりの年間CO2排出量が少ない国(7トン程度)に対して、アメリカは(一人当たりで)2倍弱の13トン程度。それでもアメリカの人口が中国よりも少ないため国全体としての排出量の第1位は中国である。

とまあ、こんな風にまとめることができると思います。中国が先進国であり、ドイツや日本などと同じ程度の一人当たりのCO2排出量の国、というのが私にとっては「よくぞここまで」と感動できるポイントです。

 このブログを読んでいるあなたがもし高校生なら「一体どこに感動の要素があるのやら」ということになるでしょう。そこで今回は皆さんが生まれたころ、18年前の2005年の二酸化炭素排出量のデータに目を向けてみたいと思います。

 下図がそのデータ。私が以前から行っている環境関係の授業の古い資料に残っていました。

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出典) EDMC/エネルギー・経済統計要覧2008年版
全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(http://www.jccca.org/)より

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2023.10.05

とうとうこんな時代になりました(江頭教授)

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 以前の記事で紹介したとても便利なサイト「全国地球温暖化防止活動推進センター」JCCCAの、特に「すぐ使える図表集」のコーナーでには温暖化に関する情報を見やすくまとめた情報が盛りだくさんです。その中の一つ「世界の二酸化炭素排出量に占める主要国の排出割合と各国の一人当たりの排出量の比較」が以下の図。私はこの図を「サステイナブル環境化学」の授業のなかで使っているのですが、毎年データが更新されるので今年も最新版を取得したのです。

 一言断っておくと、この図表は2023年度のものですがデータは2020年と少しタイムラグがあります。(データの整理が一瞬でできるわけではありませんからね。)

 さて、図をみると排出割合が一番大きいのは中国。二番目がアメリカとなっていてこれは最近の変わらない傾向です。中国の排出量はアメリカの2倍以上。とはいえ中国は人口も多い国ですからひとりあたりはそんなに多く…って、いや、結構出してますよね。

 

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出典) EDMC/エネルギー・経済統計要覧2023年版
全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(http://www.jccca.org/)より

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2023.10.04

ポストコロナ時代は授業をするのも大変です(江頭教授)

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 新学期が始まってもう2週間目に入りましたが、月曜日1限の授業で私は忘れ物をして教授室に取りに戻ったりしています。実は授業開始の初日、先週の月曜日1限にも忘れ物をして教授室にとりに戻っていて、これで連続2回めの忘れ物。とうとう本格的にぼけてきたのか。いや、そもそも授業に持って行くものが多過ぎじゃないか?

 というわけで私が授業をするときの教卓を撮ったのが下の写真です。

 まず右手奥側の教科書、そしてその手前のノートなどはオーソドックスな「教授のもちもの」ですね。でもノートの上に載っているスティック状のものはPC用のポインターだったりします。(紙の本物の)ノートの右隣にあるノートパソコンで使うのです。そのさらに右側の手前にあるのは紙挟みでメモ用の雑紙が入っています。右奥側にある黒い円盤状のもの、これは実はオンライン配信用のマイクだったりします。

 さて、また紙のノートに目を戻してその手前にあるのはタブレットPC、iPad+ApplePencileです。そしてiPadの左となりにあるのは電卓ですね。

 さあ、これで大体説明が済んだでしょうか。おっと、ノートの下にケーブルが覗いていますが、これはノートPC用の電源ケーブルです。

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2023.10.03

「環境問題が人間活動の結果である」と考えられるのは何故か(江頭教授)

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 前回の記事では「環境が悪いのが環境問題」ではなくて「環境が(自然の変動の幅を超えて)変化することが環境問題なのだ、ということを述べました。今回はこの考えを前提に、なぜ「環境問題が人間活動の結果である」と考えられるのかを説明したいと思います。

 まず単純な言葉の定義の問題として「自然の変動の幅を超えて変化する」ことを環境問題だと定義すると「自然を」「超えて」という段階ですでに自然が原因ではないことになってしまう。自然と対立するのは人間の活動なのだから、この定義だけで「環境問題が人間活動の結果である」ということになってしまいます。いや、これはもう少し正確に考えないと。

 前回の記事では、環境問題が問題であるのは「どんな場所でもその環境に応じた生態系が存在し、そこで生業を営む人々が」居て、その場所の環境が「その人々にとっては日常の一部」である。そして「それが変化して日常が奪われることこそが問題である。」と述べました。つまり、自然の起こった現象でも、人間の活動に由来する現象であっても、こちらの定義なら「そこで暮らす人々の日常を奪うほどの環境の変化」が起これば環境問題だ、ということになります。

 そして今回主張したいのは「そこで暮らす人々の日常を奪うほどの環境の変化」を起こす原因はほとんどは人間の活動だろう、ということ。その理由は以下の図をみて頂ければ明らかではないでしょうか。

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2023.10.02

「環境が悪いのが環境問題ではない」という話(江頭教授)

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 新学期がはじまって私はまた「サステイナブル環境化学」の授業を始めました。いつもこの授業では「環境問題」とは何か、についての説明をしています。

 まず環境にもいろいろありまして、「家庭環境」とか「投資環境」とかね。でもそれは「サステイナブル環境化学」であつかう環境ではない、などと言う話を枕にして最初に強調するのが表題の「環境が悪いのが環境問題ではない」とうことです。

 例えば日本は夏は暑くて冬は寒い国です。暑い夏も寒い冬も環境が良いとは言えません。でもそれだけなら別に環境問題と言うことはないでしょう。問題なのは夏がどんどん暑くなる、とか冬が余り寒くならない、という変化が起こる場合です。

 世界い目を転じれば凍てつくツンドラや乾ききった沙漠など、劣悪な環境条件の場所はいくらもあるのです。でもそれが自然の状態であるならば、必ずそこにはその環境に応じた生態系が存在し、そこで生業を営む人々があるはずです。部外者の目には劣悪に見える環境もその人々にとっては日常の一部。それが変化して日常が奪われることこそが問題である。環境問題の「問題」はそう言う部分なのです。

 

Taiyou_sunglass

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