西暦2070年は令和52年だろうか(江頭教授)
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日本の少子化とそれに伴う人口減少についての議論の元になる人口の予測については国立社会保障・人口問題研究所が公開している「将来推計人口・世帯数」が議論のベースとなる資料だと言えるでしょう。人口やその年齢構成をは比較的予測がし易い統計数値です。今年10歳の人は10年後には20歳になっている、という例外のない法則があるわけで死亡と誕生以外に間違いが入る余地がない。誕生についての出生率の見積による誤差はありますが、逆に言えばそれくらいしか外れる余地がない訳です。
では早速「日本の将来推計人口(令和5年推計) 」という資料で令和3(2021)年~令和52(2070)年の人口推移の予測をみてみましょう。
まず、予測がし易いなどと言ってもやはり未来のことは不確かで、推計値は「出生高位」「中位」「低位」の三つの仮定に基づいて計算されています。2070年の日本の総人口は出生が高位の予測では9550万人、中位の予測では8700万人、低位では8000万人と予測されています(いずれも死亡は中位の推定)。2020年の人口が1億2600万人ですから約3000万人から4600万人の人口減少が起こるという予想。「大変だ!何てこった、これじゃあ日本は人口ゼロの国になってしまうじゃないか!」
このペースで人口が減ると考えて、これまでの傾向を直線的に伸ばして予測してみましょう。出生低位の予測なら150年後の令和152年を待たずして日本の人口はゼロに。高位推定でも200年後の令和202年までが限界の様です。
とまあ、こう書いても皆さんにはすぐにこの予想の非現実的なところが分かってしまうと思います。
いや、令和52年も有りそうも無いのに令和152年とか令和202年ってどうなのよ。
「えっ?そこ?」と思われるかも知れません。やや不敬に当たるかも知れませんが天皇陛下のお年を考えると令和52年はかなりぎりぎり。つまりかなり大きな確率で「西暦2070年は令和52年」ではなく新しく決まった元号で呼ばれていると思われます。
つまりこの「令和3(2021)年~令和52(2070)年の人口推移」という予想は「令和52年」という段階で、もう予測を外してしまう可能性が高いのですね。
年の数え方一つをとっても元号という日本固有の制度のために未来は定まりません。前回述べたように、人口予測についても令和52年までならともかく、令和152年とか令和202年まで現在の社会の状況がそのまま続くとは到底考えられないのでは。これは今から148年前や198年前の世の中がどうなっていたかを考えてみれば納得して頂けると思います。
実は国立社会保障・人口問題研究所の推計には「長期参考推計結果」として令和102年までの推計も示されています。しかしあくまでもメインは令和52年までの予測です。このような推計値が意味をもつ(当たる確率が高いと期待できる)のはせいぜい令和52年くらいまで。という理解が共有されているということですね。
結局のところ、この推計では「妥当な予測が可能な期間内で人口がゼロになることはない」ことが示されている、という言い方もできると思います。
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