日本のエネルギー的な自立は達成できるか(江頭教授)
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2023/10/18現在、「ハマスとイスラエル軍の武力衝突」と言うニュースが世界を駆け巡っています。事の起こりは10月7日のハマスによるイスラエルへの大規模攻撃なのですが、この日が「第4次中東戦争開始から50周年」だとの指摘もありました。私個人は「第4次中東戦争」という言葉は意識せざるを得ません。何故なら「第4次中東戦争」は日本に、というか世界に「石油ショック」を引き起こした切っ掛けなのですから。
「石油ショック」ではトイレットペーパー騒動などが印象的ですが実際にはひどいインフレと不況の方が多くの人にとっては深刻な問題だったのだろうと思います。私自身はまだ子供で家計について心配する立場ではなかったので実感は薄かったのですが、世の中全体が何か暗い雰囲気に包まれていた気分は今でもよく覚えています。
さて、そんな経験から私はエネルギー的な自立、つまり産油国などの意向に振り回されることなく自由にエネルギーを得られること、あるいは石油(や天然ガス)が輸入できなくても困らない国作りが大切だ、と思う様になりました。そこで本学の大学院、サステイナブル工学専攻の学生諸君に授業の課題として日本のエネルギー的な自立は達成できるかを問う課題を出してみたのです。
さて、この課題に対する大学院生の皆さんのレポートはなかなか力作揃いだったのですが、その中でも私が意表を突かれた指摘を一つだけ挙げると「脱炭素を目的とした投資はともかく、エネルギー的な自立に対する投資は限られているのではないか」という意見です。
まず、「脱炭素」と「エネルギー自給率の向上」はともにエネルギーに関する「何となく良いこと」なのですが、よく考えると両者は同じことではありません。「脱炭素」も「エネルギー自給率の向上」も、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換が、その具体的な実現方法ではあります。しかし再生可能エネルギーをどこから入手するのか。確かに「脱炭素」が目的であれば、必ずしも国内で入手する必要はないのです。
日本は多少の石炭を除いて化石燃料に恵まれない国なのですが、それは再生可能エネルギーについても言えることです。太陽光発電やバイオマス生産などは、やはり南の暖かくて日照の強い国の方が有利。風力発電なども平地の少ない地形のために適地は限られています。海洋面積の広さから洋上風力発電には大きなポテンシャルが期待されていますが、導入にはまだ時間がかかるでしょう。
ならば国外で容易に得られる再生可能エネルギーを何らかの形(水素とかアンモニアとか)に変換して日本に輸入するというのも「脱炭素」については有効な手段となります。とはいえ、これは新たな海外依存の形であり「エネルギー自給率の向上」とは対立するものです。
この学生さんのレポートは、本人の評価とは明言していませんが、「エネルギー自給率の向上」よりも「脱炭素」の方が重要だろうという意見の(正確には「脱炭素」の方が重要だと多くの人が考えるだろう、という意見の)表明なのです。石油ショックの記憶からエネルギー的な自立は日本国民の悲願なのだと思い込んでいた私には少しショックな内容でしたね。
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