真空への気体の溶解度(江頭教授)
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「ヘンリーの法則」は液体に溶ける気体の量は気体の圧力に比例するという法則ですね。あっ、温度一定という条件があります。
「気体の量が圧力に比例する」という関係は液体、例えば水を一定の空間だと見なすと「ボイルの法則」とそっくりです。これを逆にみて真空を一つの液体とみなして、ボイルの法則をヘンリーの法則に読み替えて「真空への気体の溶解度」を計算してみよう、というのが今回のお題です。
まず本当の気体の溶解度の数値を見てみましょう。1.01×105Paの気体が0℃の水1Lに溶ける物質量を教科書の表から拾ってみると
H2 0.98×10-3mol
N2 1.06×10-3mol
O2 2.19×10-3mol
CO2 76.5×10-3mol
HCl 23.1mol
となります。
ではお待ちかね。1.01×105Paの気体が0℃の真空1Lに溶ける物質量、つまり0℃、1Lに存在する1.01×105Paの気体の物質量を求めてみましょう。状態方程式が…という計算もできますが、0℃1気圧の理想気体1molは22.4Lという数値を覚えておけばすぐ計算できます。
1mol/22.4L = 0.0446mol/L
先ほどの溶解度と合わせて書くと
真空 44.6×10-3mol
となります。
H2、N2、O2はの溶解度は「真空の溶解度」に比べて文字通り桁違いに少ないですね。水を真空と比べれば、水分子がある分、気体の分子が入る余地がないということで、ある意味当たり前と言えるでしょう。
その一方でHClの水への溶解度は「真空の溶解度」よりずっと大きな値になります。これはHClは真空に居るよりも水の中に居る方が好きだ(安定だ)ということだと理解できます。HClは水にとけて電離してH+とCl-となって安定化しているので単純に真空の存在するのとは違うわけです。
CO2の水への溶解度は「真空の溶解度」の2倍程度ですが、他の気体に比べるとかなり近い値です。水への溶解度は温度が上がると急激に減少しますから、室温付近でほぼ同じ値になるはずです。「炭酸飲料」の代わりに「炭酸ガス」を缶詰にしてもCO2の量はだいたい同じ、ということです。CO2の場合、水が邪魔で溶け込めない効果と、CO2が水との相互作用で安定化する効果とがだいたい釣り合っていると言えるでしょう。