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戦争に負けた国の戦争映画「地球防衛軍」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 今回紹介する映画「地球防衛軍」は1957年に公開された東宝特撮映画。監督が本多猪四郎、特技監督は円谷英二という「ゴジラ」を作ったコンビの作品です。タイトルに「軍」と入っていることからも分かるようにこれはある種の戦争映画です。

 さて、ここで公開年が1957年であることを考えてみると、この映画は先の戦争(第二次世界大戦というか太平洋戦争)から12年後の作品ということになります。感覚としては東日本大震災(2011年)から12年後の2023年に震災や天変地異に関する映画を作る、ということを想像してみれば良いでしょう。(例えば「雀の戸締り」のような。)

 大きな社会的な事件があって、それに近いテーマの大衆向けの映画を作るとなれば、スタッフは意識的か無意識的かを問わずその事件を、この「地球防衛軍」の場合には先の戦争を、どのように解釈するのか、受け入れるのかについて、なにがしかの結論を示すことになると思います。

 タイトルの「地球防衛軍」には、まさの先の大戦の反省というか配慮というか、あるいは正当化というか都合の良い設定が表れています。

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 まずタイトルの「地球」。この映画は地球外の知的生物、要するに宇宙人(ミステリアンと呼ばれています)との戦いを描くもので、地球の、というか世界の国々は一致団結してミステリアンと戦います。戦争映画ではあっても世界平和を訴えているわけですね。

 そして「防衛軍」。ミステリアンは地球(よりによって富士の裾野)に「わずか半径3kmの土地」と言って領土の割譲を要求してきますが、世界各国の代表者による会議(おそらく国連)の意を受けた日本政府はこれを断固拒否。実際、ミステリアンは地下にそれ以上の規模の秘密基地を建造しており、やがて要求を「半径120km」へと拡大してきます。これは東京圏をも含む領域であり、ミステリアンは侵略者という素顔を明らかにするのでした。

 侵略を悪、防衛を善とわかりやすく色分けして、地球側の代表である日本の軍隊は自衛の、あるいは防衛のための軍隊で善の側にある「防衛軍」だ、というのですね。

 さて、映画の本編で描かれる「地球防衛軍」は最初はミステリアンの兵器に圧倒されるものの、世界各国の協力のもとに次々と新兵器を繰り出し、やがては侵略者を地球から追い出すことに成功。結局は地球サイドの完全な勝利であり、明るい雰囲気のなかで映画は終了するのです。

 この映画をもって、戦後の日本は「先の大戦では悪いこと(侵略)をしたから罰を受けたけれど、今はみんな(世界)と仲良くしているからいいよね」という理解で先の戦争を総括したのだ、とまで言うことはできません。でも突き詰めると戦後日本の戦争の総括はそのぐらいのレベルなのかもしれませんね。

 

江頭 靖幸

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