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映画 黒澤明「生きる」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 「生きる」は1952年公開の映画。黒澤明監督の代表作の一つです。以下のニュースにもあるように最近NHKで放送されたのでそれを見ての感想を、というわけです。

 この映画の主人公は市役所で大きな意味もない書類仕事に明け暮れながら「忙しいが退屈」な毎日を送っています。しかし自分が不治の病に冒されていて余命が半年か1年だ、ということを知ることになる、というストーリー。タイトルにあるとおり、自らの死を意識したときから「生きる」ことを見つめ直し、そして一つの答えを得る、と言う物語です。

 翻って、本当は誰もが何時死を迎えるか、じつは分からない。ならば日々そのことを考えて、より良き生き方を模索するべきだ。物語のなかでそのような考え方も語られますが、結末は少しシニカルです。

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 最初にも書きましたが、この映画は1952年公開。私の生まれる10年前なので、当然劇場で見た記憶はありません。でも、子供の頃にテレビ放送されたものを見た記憶があります。そのときにはこの映画のメッセージを素直に受け取ってひどく感銘を受けたものでした。

 とはいえ、いまこの年になって見直してみると、この映画がかなり無理をしていることが分かります。

 なによりも不自然、というかご都合主義的なのは、主人公の病気のことを本人以外、ほとんどの登場人物が知らない、というところでしょう。主人公は自分の死にたった一人で立ち向かうことを余儀なくされているのです。

 自立した個を確立した人間ならば自分の死に対しては一人で立ち向かうべきだ、というのはその通りなのですが、そのような状況は一般的ではない。いや、私も何が一般的なのかは分かっていないのですが、少なくともリアルには感じられないなあ、などと。そう私が思うようになったのも年を取って死が近づいてきたということなのでしょうか。

江頭 靖幸

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