「6.02E+23」の"E"って何?(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
アボガドロ数は 6.02×1023 ですが、これが「6.02E+23」などと書かれていることがあります。学生諸君がつくるレポートはともかく、学会の発表などでもこの書き方を見かけることがあるのですが、これは科学における数値の正式な書き方ではありません。
おそらく、ですがこの書き方はプログラミング言語 FORTRAN の数値表現から始まったものだと思います。FORTRANは最初のプログラミング言語であり、今のようなスクリーンではなく、タイプライターの様な機械的な端末で結果を出力していた時代から使われていました。そのような端末では「1023」の23の部分のような上付きの文字を表現することができなかったのです。
では、6.02*10^23 の様な表現もあり得たのでは。(BASICではこう書きますよね。)たしかにこれならタイプライター型の端末でも表現可能です。でも「*10^」の部分は毎回おなじなのですから、一文字にまとめても構わないだろう。まとめる方が効率的だ。いや、まとめるべきである、ということなのでしょう。「でもプラスとマイナスを明確にするために+は付けるべきだ」というところが几帳面ですね。
さて、「*10^」をどんな一文字でまとめれば良いのでしょうか。「べき乗の指数」を表す"Exponent”からとって"E"。確証はありませんが、おそらくそんなところではないかと思います。
FORTRANでは"E"以外の文字を使った表現もありました。「6.02D+23」のように"D"を使う書き方です。"D"は倍精度変数、と呼ばれる普通の変数より高い精度でデータを表現できる変数に使用される表現方でした。(図は手元のFORTRANの処理系をつかった実例です。倍精度ではない変数にD指定子を使ってもエラーはおろか警告も出ないところが、ある意味FORTRANらしいところです。)
さて、この「6.02E+23」という表現がなんで世の中ではびこっているのでしょうか。みんながFORTRANを使う様にも思えませんが…。
これもおそらく、ですがEXCELの様な表計算ソフトで桁数の大きな数値を表示するときにこの書式が使われるからだと思います。試しにエクセルで
602000000000000000000000
と打ち込んでみてください。表示は「6.02E+23」になるはずです。表計算ソフトには長い歴史があります。初期の表計算ソフトを実行していたコンピュータでは上付き文字を表現できなかったので、FORTRANと同様の書式が用いられたのでしょう。表計算ソフトの世界ではデータの互換性が大切ですから、ソフトの代替わりがあっても新しいソフトは古いものと同じ数値表現を踏襲し続けた結果、現在でもこの書式が生き残っているのだと思われます。
歴史的経緯はともあれ、「6.02E+23」という書き方は正式な書式ではありません。皆さんがレポートを書いたり、発表をするときはきちんと 6.02×1023 と書いて欲しいところです。
さて、実はこのブログのプラットフォームのエディタでも、上付き・下付の表現は直接にはサポートされていません。今回の様に 1023 の様な表現が必要な場合、本文中なら、ブログ記事の原稿のHTMLを直接編集して、<sub></sub>タグや<sup></sup>タグをつかって表現するようにしています。とは言え、タイトルでは「1023 」という表現はできませんから「6.02E+23」という書き方になってしまうのです。