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書評 モリー・マルーフ.「脳と身体を最適化せよ!――「明晰な頭脳」「疲れない肉体」「不老長寿」を実現する科学的健康法」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 以前、このブログで「健康になる技術 大全」という書物を推薦しました(その1その2その3)。少々怪しげなタイトルですが、その内容はいたってまとも。著者は「万人に意義のあるエビデンスに基づいた医学的な情報」にこだわっていて、そもそも科学的なエビデンスとは何かを掘り下げるところから始める念の入れようでした。(推薦記事のその1をご覧ください。)

 さて、今回紹介する

 モリー・マルーフ著 矢島 麻里子 訳

 脳と身体を最適化せよ!――「明晰な頭脳」「疲れない肉体」「不老長寿」を実現する科学的健康法

 ダイヤモンド社 (2024/2/14)

という本ですが、これはある意味「健康になる技術 大全」の対局にある様な書物です。

 この本では医学的な研究の結果の利用というよりは「バイオハック」という技法が中心的に語られています。

「バイオハック」について、この本の著者は

バイオハックとは、心・身体・精神すべてにおいて最高に健康な自分になるために、単一事例実験によって最先端の科学的知見を応用するプロセスである。

と定義しています。美辞麗句を引っぺがして要約すると「いろんな健康法を試してみて巧くいったものを生活に取り入れよう」でしょう。

 「単一事例実験」と格好を付けていますが要するに個人の経験に過ぎません。客観的な、というか科学的な知見を得るために「単一事例実験」はほとんど役には立たない、というのは言い過ぎですが、全く決め手に欠ける、とは言えるでしょう。つまりこのバイオハックは医学的な意味においては最低レベルの証拠に基づいた知見の集まりにすぎません。そして本書の著者もそのことには気が付いているのです。

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 実際、この本のなかでもっとも読者の参考になるのは第6章の「食事——栄養のベスト&ワースト」の後ろの方にある以下の部分の指摘でしょう。

要するに、最も合う食事法は人によって異なるというのが正解だろう。

(中略 ここでいろいろな異なる健康法を賞賛する人々がいることを指摘して)

自分のタイプに合う食事法を見つけると、体調が改善する。しかし、まさかそれが「誰にでも効くわけではない」とは想像もできないだろう。

(モリー・マルーフ. 脳と身体を最適化せよ!――「明晰な頭脳」「疲れない肉体」「不老長寿」を実現する科学的健康法 (p.242). ダイヤモンド社. Kindle 版.)

要するに著者は世に溢れる食事法について「誰にでも効くわけではない」、もっと言うと「(読者の)あなたに効くとは限らない」と言っているのです。著者が「万人に意義のあるエビデンスに基づいた医学的な情報」と「一個人の体験談」との違いをよく理解していることが分かります。

 でも、それを言ったらこの本に書かれている諸々も「一個人の体験談」でしかありませんから、「誰にでも効くわけではない」のでは…。そうなるとこの本の存在意義は一体何なのでしょうか。それについては稿を改めて私の意見を述べさせて頂きたいと思います。

 

江頭 靖幸

 

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