化学工場と法規制(江頭教授)
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「化学工場は何をするところですか?」 という質問に皆さんなら何と答えるでしょうか。
原材料から有用な化学物質を製造している。
素晴らしい。でもこの答えは50点です。
原料から人の役に立つ物質を造る、このプロセスでは、大抵の場合別に役に立たない、そして時には有害な物質、副生成物も同時にできてしまいます。役に立たないからといって勝手に捨ててしまうことはできません。何かの方法で無害化してから廃棄する必要があります。そこまで考えると化学工場で行われていることは、
原材料から有用な化学物質を、副生成物から無害な廃棄物を製造している
となるでしょう。
廃棄物を製造、というのは変な言い方ですが副生成物も化学物質の一種ですから、それを変化させるための作業が必要な点では有用な化学物質の製造と同じです。そのための施設も必要ですし、エネルギーも消費します。
こう考えると化学工場を運営する費用の半分は廃棄物処理だ、というのは言い過ぎだとしても、廃棄物処理のコストがそれなりの割合を占めることが理解できると思います。化学工場は原則的には有用な化学物質を販売した費用で運営されているので、化学物質の価格には副生成物の処理費用も上乗せされていて、その割合は決して小さなものではない、ということですね。
さて、ここまでは「副生成物の処理を行う」という前提で話をしてきましたが、誰かが副生成物を処理しないで捨ててしまう、と決めてしまったらどうなるのでしょうか。
廃棄物処理をしない工場の化学物質の価格はずっと安くなるのでよく売れるでしょう。副生成物の処理をしっかり行っている化学工場の製品は割高なので売れなくなってしまい、その化学会社は倒産してしまいます。すると副生成物を垂れ流しにする会社はどんどん成長して規模が大きくなってゆく。いつしか副生成物を処理する工場はなくなってしまい、全ての工場が副生成物を垂れ流しにする様になってしまいます。なんという事でしょう。でも、これが市場原理というものです。
さて、こんなことが実際に起こってしまえば公害を防ぐことなどできません。副生成物は正しく処理しなければならない、どの工場に対してもそのように強制することが必要です。できる所からやれば良い、などと言っていれば結局どこもやらないことになってしまいます。
これが公害、つまり水質汚濁や大気汚染を法律で規制しなければならない理由です。全ての工場に例外なく副生成物の適正な処理を義務づける必要があり、そのためには法律で「何人も汚染物質を環境に放出してはいけない」という義務がある、と宣言する必要があるのです。
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