グローバル化と公害の輸出(江頭教授)
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先日、本ブログの「化学工場と法規制」という記事で化学物質の製造に伴って発生する有害な副生物の処理についての考え方を述べました。化学物質を製造している工場から有害な副生成物が放出されると公害問題が起きる。これを防ぐためには法的な規制が必要だ、という話です。ここで重要なのは法的な規制はすべての化学工場、すべての化学会社に例外なく適用されなくてはならない、という点です。廃棄物処理を免れた化学工場が一部にでも存在を許されれば、真面目に処理を行っている化学会社は市場競争に負けて淘汰されてしまいます。
このお話、一つの国の中の話として説明していましたが、現実の世界ではグローバル化が進行し、世界の市場は一つになろうとしています。一つになった世界の市場では世界中の国の企業(化学会社も含む)が自由な市場競争を行うことになるのですが、実は、ここで先に書いた「廃棄物処理を免れた化学工場が一部でも存在を許され」るという状態が発生する余地があるのです。
世界のどこかの国で化学物質の合成に際して発生した有害な副生物を処理しなくて良い、処理を強制する法律がない、とうい場合、その国で造られた化学薬品は廃棄物処理の費用の分だけ安価になります。安価な化学物質は世界中で売れるので、その国の化学工場の製品が世界の市場を独占することになり、結局、廃棄物処理は行われないことになってしまいます。
先進国の化学会社が自分の国での規制が厳しくなってくると、まだ規制の未発達な発展途上国に工場を移して同じように有害な廃棄物を出し続ける。こんな行為を「公害の輸出」と呼びますが、これは先進国の経済活動に発展途上国が巻き込まれた形ですから、先進国側の法律で対応できる範囲です。しかし、発展途上国に工場を造るのは別に先進国の化学会社とは限りません。先進国の側の法律では有害廃棄物の排出を停めることはできないのです。
こう考えると、有害廃棄物の排出規制を世界が協力して行うことが必要なことがよく分かりますね。
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