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2024年5月

2024.05.31

エネルギーの将来象(江頭教授)

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 我々応用化学科が所属する工学部の大学院は「工学研究科」ではなく、「サステイナブル工学研究科」という名称です。サステイナブル工学の確立を目指す、という方針を明白に示した名称ですね。その大学院の授業のなかで私は「サステイナブル工学概論」という授業を受けもっています。

 この授業の中で「サステイナブル社会」についてレポートを書いてもらいました。具体的には2050年以降の社会がどうなっているか、という課題です。

 レポートでは未来の、というか2050年のエネルギー源についても質問しました。どんな答えが返ってくるのでしょうか。

 おそらく皆さんのご想像の通り、一番多かった回答はのは太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーが2050年、そしてそれ以降の主要なエネルギーになる、という回答でした。

 もしこのブログを読んでいるあなたが高校生か大学生なら、この回答はいたって「普通」だと感じたはずです。でも、私には、いえ、私の年代の人間にとってはある意味感慨深い回答なのです。

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2024.05.30

歩く速度と体調(江頭教授)

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 昨日の記事では人が1km歩く時間は12分から15分程度だ言われている、という話を書きました。では実際に私はどのくらいの速さで歩いているのか。

 Apple社製のスマートウォッチである Apple Watch にはGPS機能を利用してジョギングやウォーキングのタイムレコードを取る機能があります。そこで朝、大学に行く道での1km当たりの所要時間を測ってみることにしました。

 結果は予想のとおり。1kmで10分台は難しく、早いときでも11分台。大体11分から12分ぐらいのことが多いのですが、時には14分以上かかることもあるのです。思っていたより歩く速度はばらついている。というか、たまに歩くのが遅くなっている日があることに気が付きました。

「今日は歩くのが遅いな」という日はどんな日なのだろうか。

 

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2024.05.29

いろいろな歩行速度の見積(江頭教授)

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「一里4キロ1時間」という言葉を知っているでしょうか?「里」というのは昔の距離の単位で1里が4kmに相当する、というのが前半。最後についている「1時間」というのはその一里を歩くのに約1時間、いや半時(この場合の「時」は「とき」と読みます。昔の時間の単位で約2時間です)というべきでしょうか。要するにこの言葉は人間の歩くスピードは時速4km程度。1km歩くのに15分程度ということを示しています。

 他にも人間の歩く速度に関係する情報があります。不動産関連でよく使われる「駅から○○分」という表現。この場合は人間が1分に歩く距離を80mとするそうで、時速4.8km、1km歩くのに12分半となっています。こちらの方が少し早い設定になっているのですね。

「不動産屋は駅からの距離を短く見せたいからインチキをしているんだ」などとは思わないでください。「一里4キロ1時間」の方は旅行は徒歩で進むしかなかった時代の昔の人たちが使っていた距離の単位に関するお話で、長距離を移動する場合の数値です。その一方で「駅から○○分」は短距離の移動のはなし。まあこれくらいの違いは許容範囲でしょう。

 さて、東京工科大学の八王子キャンパスと最寄り駅の八王子みなみ野駅との距離はどうなっているでしょうか。Googleマップで調べたのが以下の図です。

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2024.05.28

高校生と大学生の歩く速度(江頭教授)

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 昨日の記事は「八王子みなみ野駅からキャンパスまで歩くのも良い」と言って締めたのですが、今回はその道すがらで気が付いたことを。大学の授業1限に間に合う様に八王子みなみ野駅からの道を歩くと、今の季節、ちょうど大学近くの高校に向かう学生さん達とすれ違うのです。

 いや、すれ違う、というのは正確ではありません。駅から高校までの道は途中まで重なっているのです。高校に向かう学生さん達を追い越してゆく、というのが正確です。

 そして信号を渡って高校生諸君はまっすぐに、私達大学に向かう人は道を曲がって大学正門に向かって歩きます。高校生諸君とはここでおさらば。その後の道は大学に行く学生諸君と一緒に歩くのですが…。いや、今度は私が追い越されてゆくぞ!

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2024.05.27

大学に行って「小判」をみつけた(江頭教授)

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大学は知識を付けるところ。「知は力なり」というが如く大学で学ぶことで富を得ることもできましょう。小判とは富の象徴ですね。

などという「いい話」をしたいわけではありません。とはいえ本物の「小判」を見つけたわけではありません。私が見つけた小判は下の写真のもの。

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えっ、小判に見えない?そうかなあ、扁平な形と独特の模様で小判のように見えるので、この草を「コバンソウ(小判草)」と呼ぶのですが…。

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2024.05.24

教員紹介の写真を更新しました(江頭教授)

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 教員紹介の写真は適宜更新すべきだ。それが昨日の私の記事の結論でした。

「先ず隗より始めよ」ということで、今回は私の教員紹介の写真を更新した、というお話し、というかご報告です。

 まず、いままで私の教員紹介に乗っていたのが下の写真。実はこの写真、本学着任時に撮ったものではありません。2019年の10月に撮った写真なのです。その証拠に、この写真の背景は本学応用化学科の学生実験室です。着任時(2014年4月)にはまだ整備されていませんからね。

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2024.05.23

教員紹介が電子版に移行するらしい(江頭教授)

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 個人情報に関してうるさい今の時代からは想像もできませんが、昔は教職員の「住所録」というものがありました。もちろん、電子版などという概念すらないほどの「昔」です。それがどのような経路からかは分かりませんが、所謂「名簿屋」という人たちの手に渡ったのでしょう、迷惑メールならぬ迷惑ダイレクトメールが届くようになって…などというトラブルもありがち。もっとも迷惑メールと違って迷惑ダイレクトメールは送る方にもコストがかかるので、それほど致命的なことにはならなかったのですが。

 とはいえ、今は「住所録」を作っている職場は珍しいのではないでしょうか。その一方で大学教員の一覧である「教員紹介」という冊子は今も健在、というか今まで健在でした。「教員紹介」に載っているのはメールアドレスと部屋番号まで。電話番号は載っていません。上記のような迷惑電話がかかってこないように配慮されているのですね。(部屋番号が書いてあったら押しかけてくる人が居るかも。いやいや、それこそ押しかける方に多大なコストがかかるのですからそこは心配ないでしょう。)

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2024.05.22

コロナ禍は去ったというものの(江頭教授)

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 いやゆる「コロナ禍」の始まりは2019年の年末ごろだったでしょうか。今は懐かしい「ダイヤモンドプリンセス号」が話題になったのは確か2020年の2月頃。あれよあれよという間に話は大きくなって本学のキャンパスも閉鎖に。2020年の4月の新入生たちは入学式ができない、という異常事態になったのでした。

 その2020年4月入学の学生諸君も今年の3月には卒業。新型コロナウイルス感染症も5類に移行して、まあ世の中的には「コロナ禍は去った」という認識ではないでしょうか。

 とは言え、世の中にはコロナ禍の影響が大きく残っている様だ。そう感じたのはたまたま企業の方と話をする機会があったからです。例えば

業界としては調子が悪いが、廃業する同業他社の顧客を引き受けて自分の会社は忙しくてしょうがない

という話。コロナ禍の際に特別な融資など手厚いサポートのおかげで生き延びてきた会社が、次第に平常もどるにつれて廃業を決めることになる、といったケースはいろいろな業界にあるのでしょう。

 あるいは、

オンライン会議が一般化したおかげで遠隔の顧客との打ち合わせが可能になった。今まで対応できなかった地域の企業もどんどん開拓しています

というお話しも。コロナ禍が切っ掛けで世の中の進歩が加速された側面もあるのでしょう。

 

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2024.05.21

MIT-TUT Workshop 「Robotics and the Human」が開催されました(江頭教授)

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 本学とMIT(マサチューセッツ工科大学)とのコラボレーションについては以前の記事(「MITのH.Asada教授に講演していただきました」)でも紹介しましたが、今回はコラボレーションの第2弾として昨日(2024年5月20日)に「Robotics and the Human」と題したWorkshop を行いました。

 MITからは以前に講演して頂いたHarry Asada教授、Neville Hogan教授とKaitlyn Becker助教の、本学からはデザイン学部の相野谷威雄講師の講演が行われました。引き続き講演者によるパネルディスカッション、MITの本学の学生によるトークなども。

 学生同士の話もなかなか興味深い内容でしたが、Kaitlyn Becker助教の「ソフトロボット」の講演、というか動画が面白かったですね。

 でも一番興味深かったのは講演者によるパネルディスカッションで、その中での会場からの質問でした。

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2024.05.20

「人や国の不平等をなくそう」は正しいのか(江頭教授)

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 私が大学院で担当する「サステイナブル工学概論」という授業については前回のブログで紹介しました。その際、学生さんたちのレポートを参考に、このゴールはいささか微妙、というか何がこのゴールに役立つのかが分かりにくい、という話を書きました。

 今回はその補足。そもそもこのゴール「人や国の不平等をなくそう」は正しいのか、という意見について紹介したいと思います。

 まず「人や国の」とありますが、国の不平等をなくす、という点については異論はありませんでしたので「人の不平等をなくそう」が正しいのか、という点が議論になります。

 学生さんからは「そもそも人が平等になったことなどない」のだからこのゴールは無謀だ、という意見もありました。でもそれを言ったら全ての人が腹一杯食べられた時代などないのですからゴール1から全て無謀ということになるでしょう。実際には産業革命以来の技術革新、とくに農業技術の革新によっていまや世界の全ての人に充分なだけの食料を生産することはできるのです。その意味ではこのゴールは決して無謀ではない。今でも飢餓をゼロにすることができないのは人類に対しての自然の厳しさ、などでは無く、人類自体の生産と分配の計画能力の問題となっています。

 そう考えると「人の不平等をなくそう」はそれに輪を掛けて人類自体の問題でしょう。しかし、それ以前の問題点を指摘してくれた学生さんもいました。「人が本当に平等になってしまったら、革新や進歩がなくなってしまうのではないか」と言うのです。

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2024.05.17

「産業と技術革新の基盤をつくろう」VS「人や国の不平等をなくそう」(江頭教授)

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 東京工科大学には大学院が併設されていています。本学の学部から進学する人も、外部から入学する人もいて、大学と大学院は完全に繋がったものではありません。とはいえ「大学院の研究室」というものはなくて学部の学生も大学院の院生も同じ研究室で研究するのです。一体化しているとは言いませんが、強いつながりがあるというところでしょうか。

 さて、我々応用化学科の学生が大学院に進学する際、普通は「サステイナブル工学専攻」となります。「応用化学専攻」ではないのですね。「サステイナブル工学専攻」は「工学部」とは異なって学科ごとの運営ではありません。大学院の授業も工学部、じゃなかったサステイナブル工学専攻で共通となります。

 大学院で私が担当する授業は「サステイナブル工学概論」。「サステイナブル工学専攻」そのもの、というタイトルですね。まあ、学部のサステイナブル工学の授業から続いて担当するというところでしょうか。

 今回、この授業のなかで「SDGs」について触れてみました。学部生とは違って大学院生には「自分の研究」というものがありますから、まず「あなたの研究はどのSDGsの目標に貢献しますか」というレポートを書いてもらいました。

 その中で多かったのが目標の9「産業と技術革新の基盤をつくろう」です。これは納得ができますよね。その一方で「人や国の不平等をなくそう」という目標の10に自分の研究が貢献する、と書いた人は一人も居なかったのです。

 なるほど。では、ここで敢えて再度のレポート課題を。「あなたの研究はSDGsの10番目の目標、人や国の不平等をなくそう、にプラスに作用しますか、マイナスに作用しますか?」
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2024.05.16

そろそろInstagramを始めるべきなのか (江頭教授)

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今年も新⼊⽣の「コミュニケーションツール」利⽤実態調査を発表したのでみておいてくださいね。

そんなことを会議で言われて思い出しました。本学では新入生に対して、どんなSNSを使っているのか、調査をやっているのですよね。本学のWEBサイトを見てみるとこちらのページに調査結果がありました。

Instagramが9年連続増の約8割、X(旧Twitter)と並ぶ TikTok、Pinterestも⼥⼦で⾼い伸び

 東京⼯科⼤学(東京都⼋王⼦市、学⻑ ⾹川豊)では、2024年度の新⼊⽣を対象に、SNSなどコミュニケーションツールの利⽤状況などに関するアンケート調査を実施いたしました(調査時期:2024年4⽉、サンプル数:1,712⼈、男⼥⽐:約6対4)。以下の通り結果をご報告いたします。この調査は2014年から実施しており、今回で11回⽬となります。

とのこと。

 とうとうX(旧Twitter)とInstagramが並んでいますから、Instagramも「一般的に使われているSNS」と扱うべきなのでしょうか。それにしてもLINEの浸透度は高いですね。

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2024.05.15

学生さんのためのスペース(江頭教授)

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 本学の八王子キャンパス、教室や実験室、事務関係の建物や図書館、食堂などの施設が揃っているのはもちろんですが、学生さん達がちょっと一休みしたり、空いた時間に勉強したりするスペースも用意されています。例えば我々応用化学科が入っている「片柳研究棟」という建物、16階の中央部分に半円形のウィングが付いたデザインの本学を代表する建物の1つですが、この東のウィングの端にもそのスペースがあります。したの図で赤丸を付けたところがその場所です。

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この建物、(赤丸のある)東のウィングには教室が、反対側の西のウィングには研究室が入っていて研究室配属前の学生さんにとってはこの東のウィングのスペースは一息つくにはもってこいの場所ではないでしょうか。

 で、下がその様子。これは4階東ウィングの休息スペースです。

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 大きな窓のそばで、明るくて広々とした空間です。窓越しには研究棟A、B(2つ合わせて円筒型のデザインで、これも本学を代表する建物の1つ)や厚生棟、フーズフーなど、食堂の入った建物が覗いています。写真を撮った方向は下図の青の矢印の方向です。

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 さて、90°カメラを振って今度は下図の矢印方向を写してみましょう。

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こんな感じ。窓越しに見える右側の建物は同じ「片柳研究棟」の西ウィングです。その隣は本部棟といって学長室を始め本キャンパスの中枢機能が集まっていて正に「本部」といったところです。厚生棟などと統一感のあるデザインとなっています。

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2024.05.14

年に一度のワックスがけ(江頭教授)

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 小学校や中学校くらいの生徒さんたちは自分の教室の掃除をしているのではないでしょうか。高校生の皆さんもやっているのでしょうか。自分がどうだったのか、あまりにも古いことで思い出せません。とはいえ、一般的なビルのオフィスで社員がみんなで掃除、さあ机を動かしましょう、という姿は想像しがたいと思います。そういう場所では清掃は専門の業者に依頼しているのではないでしょうか。

 本学、東京工科大学もそれは同じです。床、廊下の掃除からゴミの回収、庭の手入れまで、専門の方々が担当してくれいていて、学内は清潔に保たれています。

 とはいえ、例外もあります。(いや「清潔」の例外じゃありません、業者の方が担当するかどうかの例外です。)研究室の中は一般の清掃業者の方には依頼できない場所です。何しろ、研究室の中には危険な薬品や高価な測定装置がゴロゴロしていて、その部屋を使っていない人にはどこをどう掃除して良いのか分からないのが普通でしょう。

 と、いうわけで研究室の掃除は研究室を使う人間、つまり我々教員と学生諸君、ということになるのです。では、どのくらい清潔度が保たれるのか。これは研究室によってレベルはバラバラだと思います。まあ、使用する装置や実験の形態など、もともと研究室の環境はバラバラですからね(ということにしておきましょう。)

 とはいえ、例外もあります。こんどは「研究室の掃除は業者の方が担当しない」ということの例外。それが年に一度のワックスがけです。

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2024.05.13

保護者懇談会実施しました(江頭教授)

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 先週末、5月11日、12日の土日に、本学の厚生棟で保護者懇談会が開催されました。


 本学の保護者懇談会は春と秋、二回行われています。ご多分に漏れずコロナ禍で一時中断したのですが、一昨年の春から再開されました。以前は「成績に不安のある」学生さんの保護者の方々に案内を送っていたそうですが今年は全員を対象としたそうです。そのため今回の参加者は以前の倍以上に増えたとのことです。


 会場は本学の厚生棟という建物(下の写真)です。休みの日なのでこの厚生棟内に設置されている学生食堂を面談会場として利用しています。先述のとおり参加者が増えた影響か、会場のブースもいままでより密に配置されていた様に思います。


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2024.05.10

書評 畑村洋太郎著 講談社文庫版「失敗学のすすめ」(江頭教授)

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 今回紹介する「失敗学のすすめ」は東大名誉教授で機械工学が専門の畑村洋太郎博士がその豊富な経験から「失敗」を中心とした多面的な考察を述べた本です。失敗を単にネガティブなものと見なすのではなく、失敗のプラス面、失敗を活かすこと、に注目している点が特徴的で、失敗経験を利用した教育や技術の伝承についても述べています。

 小さな失敗が個人にとって学習の良い機会である様に、人類全体の知識を増やし、新しい技術の確立のきっかけと成る様な本質的な失敗、その意味で「良い失敗」もあるとし、その具体例として本書の第1章で三つの事故を紹介しています。

 一つは自励振動によるタコマ橋の崩落。二つ目は金属疲労によるコメット機の墜落。三つ目は脆性破壊によるリバティー船の沈没です。新しい現象の発見とそれを巧く扱う技術の開発へとつながったこれらの事件を畑村教授は「未知への遭遇」と呼んで他の失敗と区別しています。畑村教授は機械工学の専門家なのでこの3件を選択したたわけですが応用化学の分野で考えればハーバーボッシュ法で作られた大量の肥料(であると同時に爆薬でもある)硝酸ナトリウムの「オッパウ大爆発」はまさに「未知への遭遇」の事例だと思います。(ここは「未知との遭遇」と言いたい所ですが...)

 さて、本書は最初、2000年11月に単行本として出版されました。私は、当時の単行本版を読んで感銘を受けたことを記憶しているのですが、その後で読み直してみて「あれっ?」と思うところもありました。

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2024.05.09

ペーパーレス社会の理想と現実(江頭教授)

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 昨日の記事「最近紙の書類が増えないなあ、という話」を書いていて思いだしたんですよね。「ペーパーレス社会」という言葉を。

 昔からいろいろな業務は「紙の書類の作成」と「書類のやり取り」をベースに行われてきました。そこにパソコンが登場したので紙ではなくて「電子ファイルの書類の作成」を行い、さらにインターネットをつかって「電子ファイルのやり取り」を行えば紙を使う必要はなくなるはず。紙の要らない社会、ペーパーレス社会が実現する、というのです。パソコンというものが身近になって来た1980年代も後半のころのお話しです。

 さて、実際にパソコンが普及した1990年代にはどうなったのか。「日本製紙連合会」が発表している日本での紙の需要推移をみてみると以下の様に変化しています。

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2024.05.08

最近紙の書類が増えないなあ、という話(江頭教授)

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 本学応用化学科も設立から10年目。退職される先生から

「退職に際しての片付けは大変だよ。」

という話を伺ったという話は先日のこのブログの記事にも書いたかと思います。私は今61歳。まだ定年(65歳)にはしばらく時間があるのですが、そろそろ片付けについても考えなくてはなあ、などと思って部屋の本棚などをみていてふと気がついたことが。

 本はともかく、書類についてはほとんど古いものばかり。いや、これもう捨てても良いのではと思えるものがほとんどなのです。

 古い書類をみるといろいろな会議の資料が多い。でも最近の会議は紙の資料は配らず、電子版の資料を共有しているのがほとんどです。新しい資料が増えないぶん、古い資料が目立つわけですね。

 次に多いのが学生さんの答案やレポートなど。昔は小テストなども紙で行っていたので、その頃のものは結構な量になっています。これも最近はmoodleなどを利用したネットでのテストに変わっていて新しいものが増えないのです。

 

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2024.05.07

2015年にはこれから世の中は良くなっていくと思っていたのですが…(江頭教授)

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  2015年は本学工学部が設立された年。我々の応用化学科も2015年にスタートしました。だから2015年、という訳ではなくて、2015年はSDGsの前身、MDGsが終了した年なのです。

 MDGsについてはこのブログでも「SDGsとMGDs」という記事で紹介しました。そしてMDGsの成果についてはこちらの記事に書いています。特に「貧困撲滅」というターゲットについては

MDG アジェンダは、これまでの歴史で最も成功した貧困撲滅のための取り組みであった。

と評される(自画自賛の様な気もしますが)ほどの成果が上がったのでした。

 そのような状況でMDGsを継承する(2015年時点での)新たな国際目標であるSDGsには当然大きな期待がかかっていたのですが、はて、現実は思ったより厳しい様です。

 例えば以下の図(これはFAOが主となってとりまとめている「世界の食料安全保障と栄養の現状(The State of Food Security and Nutrition in the World)」というレポートの2023年版にあるグラフで、世界で飢餓に苦しむ人々の人数を示しています。

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2024.05.06

今日は、いや今日も休日なのですが(江頭教授)

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 春の大型連休、ゴールデンウィークも今日が最後。と、まあ世間では言われているのでしょう。しかし本学は違います。ゴールデンウィーク?そんなものは昨日で終わりました。今日からの授業、さあ、張り切っていきましょう。

「えっ、でも昨日の日曜日はこどもの日でしたよね。今日は振替休日でお休みの日では。」

まあ、世間一般ではそうですね。ですが本学では今日、5月6日は祝日授業開講の日です。

 さて、祝日授業開講日について説明しましょう。 別に「祝日授業」という特別の授業がある訳ではありません。祝日ですが、「授業を開講」する日、という意味です。

「祝日なのに授業が有るなんて!」もしあなたが高校生(あるいは中学生、小学生)ならそう思うかも知れませんね。

 大学の科目は原則として14回の授業と1回の期末試験とで構成されています。ですから前期・後期、それぞれ15週間で終わります。つまり、年間30週間しか授業は無い、ということです。高校まではいつも授業があって、その間に休みがある、という感じでしたが、大学では30週間の授業を一年間に割り当てる形になっていて、それ以外は休み、ということになるのです。休日の意味合いが違っていて、比較的自由に授業期間を設定できるのです。

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2024.05.03

「責任廃棄」って言葉知ってますか?(江頭教授)

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 我々応用化学科が属する東京工科大学工学部は設立から今年で10年目。10年目ともなればすでに退職された先生方もいらっしゃいます。そんな先生方から「退職に際しての片付けは大変。とくに大変なのは責任廃棄だよ。」という話を何回か聞いています。

 「そうか、大学の先生は責任感が強いから責任を廃棄するのは難しいのか」って、そうじゃない!

「責任廃棄」というのは「責任をもって廃棄すること」で、断じて「責任を廃棄すること」ではありません。

 我々教員は個人情報の入った情報を扱う機会が結構あります。保護すべき個人情報として「成績情報、採点結果、学生提出物(レポート等)」が含まれている以上、授業を担当している教員は必然的に保護する責任を負った情報を扱うことになるのです。学生さん達の試験の答案などはまだしも、実験などのレポートとなるとそれなりの分量があります。これを「責任をもって廃棄する」となると、焼却や溶解、あるいはシュレッダー処理が必要となります。まあ簡単なのはシュレッダー処理ですが量が多くなるとこれも時間のかかる作業となります。退職を前にして時間のないところで長年ため込んだその手の資料を処理するとなると、これは「大変だ」と愚痴りたくなるのも分かりますよね。

 

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2024.05.02

貧困ではないが飢えている人たちのためのSDGs?(江頭教授)

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 サステイナブル・デベロップメント・ゴールズ(Sustainable Development Goals, SDGs)、つまり「持続可能な開発目標」が広く知られる様になってもう数年経ったでしょうか。これは「アジェンダ21」「ミレニアム開発目標」といった国連の行動計画の最新版であり、2030年に向けて世界(正確には国連加盟国)が目指すべき17の目標を掲げています。

 今回は、そのうちの1番目と2番目の話をしましょう。

 1番目の目標は「貧困をなくそう」、そして2番目の目標は「飢餓をゼロに」。どちらも世界の目指す目標として文句なしですが、2つ並べてみると変な感じがします。

 最初の1つ、「貧困をなくそう」だけで良くありませんか?

 最初の目標が達成されて世界から貧困な人がいなくなったとしたら、二つ目の「飢餓をゼロに」も同時に達成されているのではないでしょうか。この2つの目標が並べられているということは「貧困ではないが飢えている人たち」がいる、という想定をしている様に思えます。

 でも、貧困の何が問題なのか。問題はたくさんあると思いますが、「食べ物が手に入らない」ことは一番目の問題か、そうで無くてもかなり高い優先度の問題でしょう。貧困を抜け出した人が最初にやることは毎日ちゃんと食事を摂ることだと思うのですが…。

 そう考えると二つ目の目標は一つ目と重複している様に見えます。

 実は、この二つ目の目標、正確には「飢餓をゼロに」だけではありません。

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2024.05.01

物理学者と化学者のお話し(江頭教授)

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 化学と物理、同じ自然科学ですがかなりイメージが違いますよね。これを読んでいるあなたが高校生なら、「僕は物理が好き」「私は化学が好き」といった好みがあるかも知れません。(いや「両方好き」でいてほしいところですけどね。)

 さて、今回は私が学生時代に聞いた化学者と物理学者の違いについてのお話を一つ紹介しましょう。

 ある実験でデータを整理してグラフを描いたところ、ほとんどのデータは一つの曲線にのっていました。でも一つだけその曲線から外れたデータポイントがあったのです。

 物理学者は言いました。「これはいけない。測定の際に何か間違いがあったに違いない。」物理学者は問題のデータポイントを測定したときの状況を詳しく調べ、エラーに対する徹底的な対策をして再実験を行いました。新しいデータポイントは他のデータポイントと同様、おなじ曲線に乗ることになりました。「さあ、この曲線を決めている理論はどんなものだろう」物理学者の研究はここからが本番です。

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