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貧困ではないが飢えている人たちのためのSDGs?(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 サステイナブル・デベロップメント・ゴールズ(Sustainable Development Goals, SDGs)、つまり「持続可能な開発目標」が広く知られる様になってもう数年経ったでしょうか。これは「アジェンダ21」「ミレニアム開発目標」といった国連の行動計画の最新版であり、2030年に向けて世界(正確には国連加盟国)が目指すべき17の目標を掲げています。

 今回は、そのうちの1番目と2番目の話をしましょう。

 1番目の目標は「貧困をなくそう」、そして2番目の目標は「飢餓をゼロに」。どちらも世界の目指す目標として文句なしですが、2つ並べてみると変な感じがします。

 最初の1つ、「貧困をなくそう」だけで良くありませんか?

 最初の目標が達成されて世界から貧困な人がいなくなったとしたら、二つ目の「飢餓をゼロに」も同時に達成されているのではないでしょうか。この2つの目標が並べられているということは「貧困ではないが飢えている人たち」がいる、という想定をしている様に思えます。

 でも、貧困の何が問題なのか。問題はたくさんあると思いますが、「食べ物が手に入らない」ことは一番目の問題か、そうで無くてもかなり高い優先度の問題でしょう。貧困を抜け出した人が最初にやることは毎日ちゃんと食事を摂ることだと思うのですが…。

 そう考えると二つ目の目標は一つ目と重複している様に見えます。

 実は、この二つ目の目標、正確には「飢餓をゼロに」だけではありません。

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 SDGsは17の目標を掲げていますが、一つ一つの目標には複数の「ターゲット」と呼ばれる、より具体的な目標が示されています。その数は全部で169、結構な数になります。それぞれのターゲットの内容は総務省のこちらの文書で確認することができます。

 「飢餓をゼロに」のターゲットをみると

2.1 2030年までに、飢餓を撲滅し、全ての人々、特に貧困層及び幼児を含む脆弱な立場にある人々が一年中安全かつ栄養のある食料を十分得られるようにする。

のように飢餓そのものを対象としたもがある一方で、

2.4 2030年までに、生産性を向上させ、生産量を増やし、生態系を維持し、気候変動や極端な気象現象、干ばつ、洪水及びその他の災害に対する適応能力を向上させ、漸進的に土地と土壌の質を改善させるような、持続可能な食料生産システムを確保し、強靭(レジリエント)な農業を実践する。

など、農業のあり方に関する目標もあります。

 中には、

2.b ドーハ開発ラウンドのマンデートに従い、全ての農産物輸出補助金及び同等の効果を持つ全ての輸出措置の同時撤廃などを通じて、世界の市場における貿易制限や歪みを是正及び防止する。

のようなものも。農業輸出補助金の規制が「飢餓をゼロに」することと、どのように結びつくのか。すぐに理解できる人は少ないのではないでしょうか。世界の農産物貿易の自由化を進めればより効率的な農業が発展して、結果として食糧不足が起こりにくくなる、ということでしょうか。いずれにしても、これは既に一つ目の目標「貧困をなくそう」と重複しているとは言えないでしょう。

 SDGsの目標には短いキャッチフレーズと一応の順番が付いていますが、その内容はトップダウンで理論的に決められたものではありません。国連が対応すべきいろいろな課題をまとめて17の目標として表現したものです。この目標にどの項目が入るべきか、背後には各国の思惑に基づく複雑な交渉がありそうですね。

 

江頭 靖幸

 

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