カーボンオフセットとは(江頭教授)
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世の中には「カーボン○○」と名のつくものがいろいろあるのですが、今回紹介したいのは○○に「オフセット」といれた「カーボンオフセット」です。
「黒い色の印刷のこと?」
「いや、オフセット印刷とかじゃなくてですね…。」
カーボンはともかく、オフセットという言葉は耳慣れないのではありませんか?移す、移動させる、といった意味から転じて負債などを何かで相殺する、埋め合わせる、といった意味をもっています。
そこで「カーボンオフセット」ですが「どうしても削減できないCO2の排出を、他の場所での削減や吸収で埋め合わせる」という取引と活動のことを意味しています。
「自分はCO2の削減ができない、だから他の人にやってもらおう。」とは虫の良い話。でも、そこはそれ、ちゃんと対価は必要で、有り体に言えば代わりにお金を払うことでこの取引は完結します。
逆に考えるとお金を払うだけでCO2が削減できてしまう。そんなにお気軽でよいのでしょうか?何となくずるをしているような、と感じるひともいるようです。
図は農林水産省のこちらのページから。
カーボンオフセットは「ずる」なのでしょうか。この言葉の適否はひとまず置いてカーボンオフセットの意義について考えてみましょう。
「カーボンオフセットの無い世界」と「カーボンオフセットのある世界」を比べてみます。お金のやりとりはさておいて、世界全体でのCO2削減量だけに注目しましょう。「無い世界」ではCO2は削減されませんが、「ある世界」では実際に削減が行われます。まずこれだけでカーボンオフセットはCO2排出量の削減に有効である、とは言えますね。
ではカーボンオフセットの取引が実行される条件について考えていましょう。これは普通の商取引と同じで取引を行う両者が自分にメリットがある、と考えるときのみ取引が成立します。つまり、CO2削減を依頼する側は「CO2削減はすごく難しくて大変だ、だからこのぐらいのお金で済むのなら…。」と考えているのです。一方、削減を依頼される側、実際に削減する側は「お金がこんなにもらえるならCO2削減なんて簡単だ」と考えているのです。
依頼する側が金持ちで、削減する側が貧乏だからでしょうか。言い換えればお金にたいする欲求が違うからこの差が生じるのでしょうか。もし、そうなら「カーボンオフセット」の取引にはある種のやましさがあるでしょう。CO2削減を依頼する側は、自分が「ずる」をしていると感じるかも知れません。
こう考えると、カーボンオフセットをずるいと感じる背景にはCO2削減は誰にとっても大変なことだ、という考えがあることがわかります。これは明らかに間違っている。世界には貧富の差と同様に、CO2削減のし易さの差が存在しています。カーボンオフセットの取引の原動力はこの二つの格差であり、その格差を解消するように作用するものなのです。
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