ソイレント・グリーンの何が悪いのか?(江頭教授)
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1973年公開のアメリカ映画「ソイレント・グリーン」についてはこちらの記事で紹介しています。この記事を書いた時
こんな古い映画に注目するのは僕くらいだろうなあ
などと思っていたのですが、先日下の写真のようなポスターを見つけてびっくり。なんと本作が映画館でリバイバル上映されていたのです。公開50周年(51周年?)記念なのでしょうか。デジタルリマスター版での上映だとか。とはいえ館数や上映回数は少なくて残念ながら日程的に映画館に行くのはちょっと無理そう。いや、気が付くのが遅かったですね。
さて、前回の記事では本作のあらすじを以下の様に説明しました。
舞台は2022年のニューヨーク市。人口は4000万に膨れあがり、食料をはじめ多くの物資が不足するこの大都市で、巨大企業ソイレント社が新たに開発した高エネルギー食料、それが「ソイレント・グリーン」でした。しかし、その「ソイレント・グリーン」には恐るべき秘密が隠されていて、主人公の刑事(チャールストン・ヘストン)はソイレント社の役員の殺人事件を追ううちにその秘密を知ることになる、という筋立てです。
で、その「恐るべき秘密」についてのネタバレは無しとしていたのですが、今回の記事ではネタバレありで少しコメントしようと思います。
(注意:「続きを読む」以降には映画「ソイレント・グリーン」の結末についてのネタバレがあります)
さて、警告もしたのでネタバレと行きましょう。
実はソイレント・グリーンの原料は人間の死体だった
これが「恐るべき秘密」です。
「えっと……だから何?」正直に言うと私の感想はこれです。いや、頭では分かるのですよね。人間が人間を食べる、いや食べざるを得ないという異常性、非人間的な状況に追い込まれている人類の悲劇だ、とはね。
しかしですね、まず絵面的にそんなにグロくない。この映画に出てくる高エネルギー食「ソイレント・グリーン」はなんかビスケットかウェハースのような見た目で清潔感があります。これが実は人間の死体から作られていると言われても別に実感が湧かないのです。いっそ、「人造肉」と偽られて「血の滴るようなステーキ」を主人公が食べ、それが実は……となったらギョッとしたのではないでしょうか。
もっと根本的なことを言うと「人間の命も体も、大自然の循環のなかにあるのだ」という自然観からみると別段これが問題だとは思えないのです。皆さんも考えたことはないでしょうか。「自分が死んだらその死体が焼かれ、二酸化炭素と水蒸気となって大気に還る。やがてその一部は光合成に利用され食べ物として未来の誰かの糧になるのかもしれないなあ。」とか。あるいは「僕の体を作っているたくさんの炭素原子の中には昔の偉人のからだの一部だった炭素原子も有るかも知れないね。」とかね。そういう理屈をひっくり返すだけのエモーショナルな描写がこの作品にはかけているように思います。(あと、火葬が一般的な現代日本人と欧米人の違い、という部分はあるかも知れませんね。)
ラストの主人公のセリフ、というか叫び「やがて人間が人間を(食料として)飼うようになるぞ」など、「なんでそんな面倒くさいことするの?」と単純に思ってしまいます。前の記事でも書いたのですが、どうもこの作品の制作者は人口増化による資源不足という(映画の世界での)現実的な問題の解決より、そんな状況を作り出した社会のリーダー達に対する怒りの表明に注目しているように思えてしまいます。
本作が公開されて半世紀。映画も私も年を取ったということなのでしょうか。
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