カークーラーとフロン(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
「フロンはオゾン層を破壊する物質」という話、多くの人が聞いたことがある、何となく知っている、といったところではないでしょうか。温室効果ガスによる気候変動の影に隠れて目立たなくなった気もしますがオゾン層破壊も地球レベルの深刻な環境問題です。
さて、この「フロン」について。まず「フロン」は一つの化合物の名称ではありません。「フロン類」ということもありますが、炭化水素をベースとして、その水素の一部がフッ素、あるいは塩素で置換された化合物の総称です。一般に無色・無臭・無害。この物質が最初に開発されたのはGM(ゼネラル・モーターズ)という米国の自動車会社のリクエストによるもので、1920年代のことでした。
なんで自動車会社が?そう思いますが、そもそもの用途はカークーラーの冷媒だったとか。当時クーラーの冷媒としてはアンモニアが利用されていた。そして当時の技術ではアンモニアを配管のなかに完全に封じ込めることができず、ほんの少し漏れ出してしまう。アンモニアは有毒で強烈な悪臭でも知られています。カークーラーにアンモニアを利用すればどうしても自動車の車内にアンモニア臭がすることに。これじゃあドライブも台無しです。自動車会社のGMはどうしても無臭で無害な冷媒が欲しかったのでしょう。
ではアンモニアの代わりにフロンが開発された、というのはどのような発想に基づいていたのでしょうか。私は歴史的な意味で正確な開発の経緯は知らないのですが、以下の様に考えると分かりやすいと思います。
アンモニアは窒素原子を中心に水素原子が結合している。窒素と水素の結合では電子は窒素原子側に偏っているのでアンモニア中の窒素原子はマイナスに、水素原子はプラスに帯電していて、複数のアンモニア分子の間には強い分子間力が働く。
これがアンモニアが冷媒に適している理由でしょう。
だとすれば分子内に電子が偏るような結合が必要だ。炭化水素を骨格として、電気陰性度の大きいフッ素や塩素を付加すれば強い分子間力を持った冷媒ができるだろう。
フロンの開発者はこのように考えたのではないでしょうか。
もっともポーリングが電気陰性度を定義を発表したのは1932年のこと。フロンの開発より後なのです。たとえ1920年代には電気陰性度という定量的な指標は無かったとしても、優れた化学者は各種元素間の結合と電子の偏りについて経験的な知識を持っていたのではないでしょうか。
「解説」カテゴリの記事
- 災害発生時の通信手段について(片桐教授)(2019.03.15)
- 湿度3%の世界(江頭教授)(2019.03.08)
- 歯ブラシ以前の歯磨き(江頭教授)(2019.03.01)
- 環境科学の憂鬱(江頭教授)(2019.02.26)
- 購買力平価のはなし(江頭教授)(2019.02.19)