空気はカークーラーの冷媒にならないのか?(江頭教授)
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今回もカークーラーの冷媒のお話し。まず、フロンがカークーラー用の冷媒として利用されていたアンモニアの代用品として開発された、というエピソードをご紹介して(こちらの記事)、アンモニア分子同士の間の水素結合が冷媒として有用だ、という情報から、なら水素結合する水は冷媒にならないのか、という問題を考察しました。(こちらの記事。)水の場合は水素結合が強すぎ。だから常温付近でのクーラーには使えない、というのが結論になりました。
さて今回のお題はもっと身近な物質、たとえば空気をカークーラーの冷媒にすることは出来なかったのか、というものです。
まず一つ確認しておきましょう。カークーラーといわず、クーラーというもはヒートポンプの一種。つまり仕事を利用して(熱に変えて)低温熱源から高温熱源に熱を移動させる機械です。そのヒートポンプの冷媒、というか作動流体として空気が利用可能だ、というのは確かです。
例えば有名なカルノーサイクル(ヒートポンプとして動作する場合は「逆」カルノーサイクルと言いますね)は理想気体の可逆プロセスだけで構成されたサイクルで、これでもクーラーの役割を果たすことができます。そして空気は常圧・常温付近ではほぼ理想気体と振る舞うので、逆カルノーサイクルのクーラーをつくれば空気でも動く、という事になります。
なら何で……空気を利用したクーラーの能力は非常に限られたものになってしまうのです。
本学応用化学科で利用しているアトキンソンの「物理化学 第10版」にあるカルノーサイクルの説明図です。
先の記事でも書いた様に
圧縮されて液化したアンモニアを一気に膨張させると温度が下がる
という現象がクーラーでの冷却の過程で起こるのですが、これが空気では起きないのです。空気では分子と分子のあいだに働く力が弱く、衝突したときにしか相互作用がありません。(これが理想気体の特徴ですね。)アンモニアの場合は膨張によって分子と分子が引き離されると分子間力に逆らう過程で分子の速度が下がるのですが、空気、というか理想気体では別に速度は下がらない、従って温度も下がらないのです。
これは「理想気体の断熱自由膨張では温度が変化しない」という事象で、物理化学の授業の試験問題に良くでてくるものです。
なお、先に説明したカルノーサイクルでは「理想気体の等温膨張」の過程で吸熱が起こります。等温膨張というくらいですからこれも温度は変化しない。「理想気体の断熱自由膨張」も温度が変わらないのですから、結局どちらも温度は変わりません。なのに前者は吸熱して後者は吸熱しない、と言われると少し不思議な気もしますね。
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