アンモニアはなぜ悪臭がするのか(江頭教授)
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先日の記事でフロンの開発目的が「悪臭のないクーラーの冷媒だった」という話を紹介しました。フロンが開発される以前はアンモニアが冷媒として用いられていたのですが、その毒性、そして悪臭が問題となったのだ、という話です。
さて、ではなぜアンモニアは悪臭、というか嫌な臭いがするのでしょうか?
臭いを感じる人間の鼻の受容体が云々、と始めるべきかも知れませんが、ここは視点を変えて進化論的な説明をしてみましょう。つまりアンモニアに悪臭を感じる個体の方が生き残る確率が高い理由を考えれば良いわけですね。
まず第1のポイント。アンモニアは有害です。濃度が低ければ「臭い」程度で済んでいますが高濃度のアンモニアを吸い込んだりアンモニア水を浴びたりすれば死亡することもある。それほど危険な物質です。ですから低濃度のアンモニアでも敏感に感じ取って「臭い」と感じて避ける、あるいは警戒することができる方が生存に有利なのでしょう。
とはいえ、有害だという理由だけでは不充分ですよね。どんなに毒性が高い物質でも人間(というか動物?)がその物質に遭遇しなければ進化には影響しませんからね。アンモニアは有毒な上に人間が良く遭遇する物質なのです。
人間のみならず動物や植物でも、生命活動の基本に物質の一つがタンパク質です。そしてタンパク質はアミノ酸が重合したもの。で、アミノ酸はその分子内にカルボキシル基とアミノ基をもつ化合物の総称です。
たとえばアミノ酸の一種のグルタミン酸(味の素ですね)の構造を以下に。
赤丸の部分がアミノ基で、これはアンモニア(NH3)とよく似た構造を持っていることが分かります。
タンパク質を含む物質(まあ普通は食べ物ですね)が腐敗して分解されるとアミノ酸が、さらに分解されてアンモニアが生じる。生じたアンモニアは有害なのでアンモニアが生じる程に腐敗が進んだものにたいして「臭い」と感じる生物の個体はそれを食べないのでアンモニアの毒にさらされる危険が少なくて生存確率が高い、ということなのでしょう。
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