水はカークーラーの冷媒にならないのか?(江頭教授)
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先日の記事ではフロンがカークーラー用の冷媒として開発された、というエピソードをご紹介しました。当時利用されていたアンモニアは有毒で悪臭があり閉鎖された自動車の車内を冷やす冷媒としては不向きだった、というのがその背景です。
そもそもなぜクーラーの冷媒にはアンモニアが使われていたのでしょうか?それはクーラーが
圧縮されて液化したアンモニアを一気に膨張させると温度が下がる
という現象を利用しているからです。ではなぜ温度が下がるのか?
アンモニアの分子の間には強い引力が働いている。その引力に逆らって分子の間の距離が広がるとき、分子の運動エネルギーが失われる
からです。温度とは分子の運動エネルギーの指標ですから膨張すると温度が下がる訳ですね。
ポイントは「分子の間には強い引力が働いている」ことです。ではなぜアンモニアの分子間には強い力が働いているのか?
アンモニアの分子の間には水素結合が生じているから強い引力が働いている
のです。
さて、ここまで三回「なぜ」を繰りかえしたところで、アンモニアの代わりに冷媒となる物質を探すとなれば「分子の間に水素結合ができる」分子を探せば良いということになるでしょう。ならアンモニアより強い水素結合を作るという水で良くないか?
いや、良くないですよね。だって
圧縮されて液化したアンモニアを一気に膨張させると温度が下がる
って文章、アンモニアを水に入れ換えてみましょう。
圧縮されて液化した水を一気に膨張させると温度が下がる
今度は同じ内容をちょっと言葉を替えてみましょう。
水蒸気を加圧して液化させ、それを一気に沸騰させると温度が下がる
いや、これ環境温度が100℃以上の世界での話では。つまり、水の場合には分子間に働く力が強すぎて常温では気体になってくれないのです。(いや、厳密には圧力が相当に低い条件なら一応気体にはなるのですが。)
そうなんです。クーラーの冷媒として相応しい物質の条件は分子間の力の強さが「強い」だけではダメで、「強いとは言っても強すぎない、でもちょうど良いくらいに強い」ことが必要なのです。
先日の記事で「フロンにはいろいろな種類がある」と書いたのですが、クーラーの冷媒が開発された際には常温で使うのに相応しい沸点のフロンを探していろいろなフロン類の合成が試みられたのだと思います。
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