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実験が「失敗」するということ(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 実験で「○○と××を反応させて△△をつくるぞ」と目的を決めたとしましょう。その結果△△が出来なければその実験は「失敗」なのか、というのが今回のお題。皆さんはどのようにお考えでしょうか。

 単純に考えて目的を達成出来なかったのだから失敗。それ以外なにがあるの?という考えも有るかも知れませんね。

 でも、皆さんは「フレミングとペニシリン」の話をご存じでしょうか。ペニシリンは最初に発見された抗生物質で結核をはじめとして多くの病気の治療に絶大な効果を発揮した医薬品ですが、その発見は培養実験の際に青カビが容器内に混入するという「失敗」が切っ掛けなのです。青カビの周囲では最近の生育が抑えられるという現象を見逃さなかったフレミングの観察眼が、一見失敗のように思えた実験から新たな発見を導いたのですね。

 もっとも、そこまでいってしまえば世の中の森羅万象何もかもが価値があるみたいな話になってしまいます。これでは焦点がぼけすぎですね。

 さて、最初に還って実験は「失敗」なのかというお話しについて考えましょう。

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考えて見てください。

実験で「○○と××を反応させて△△をつくるぞ」と目的を決めた

とあるのですが、これって本当に目的なのでしょうか?

 もしこれが目的なら、実験が「巧くいって」△△という物質が得られれば、それで目的が達成されて実験の成果が出たということに。なら△△という物質が実験の成果物だということになります。ではその後、△△という物質をどうするのでしょうか?論文を投稿して掲載された「論文誌」に付録として付けるのでしょうか。いや、そんなバカな。

 実験のアウトプットは物質ではなくて情報です。実は「△△をつくる」というのは実験の目的ではなくて手段なのですね。本当の目的は「この反応が効率的に進む温度条件を探る」とか「反応物として○○を用いた場合と◎◎を用いた場合を比較する」あるいは「△△の□特性を測定してその値を知る」などのはず。

 場合によっては「文献では△△ができるはずなのに、なんで再現できないのか理由を探る」といったケースもあるかも知れません。その場合△△が出来ないことはある意味予想の範囲内で失敗でも何でもないのです。その実験の手順毎の変化をきちんと観察して記録を取り、再現できない理由の目星がつけばそれが立派な成果であり、実験は成功なのです。

 その一方で、本当に「失敗」となってしまう場合もあるでしょう。本当に単純に作業を繰りしただけなら、せっかく実験を繰りかえしたのに「再現できない理由」がなにも思いつかない、ということになりがちです。

 実験の本当の目的は何か、そこを意識することが「失敗」を避ける第一歩なのですね。

 

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