「宅配便」?「宅急便」?(江頭教授)
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一般には「宅配便」。「宅急便」はヤマト運輸が運営している宅配便サービスの名称です。
というのが最小限の答えですが、60代の私としては一言付け加えたくなります。ヤマト運輸が「宅急便」のサービスを開始したのが1976年だといいますが、それ以前には「宅配便」に相当するサービスは存在していませんでした。
「宅配便」以前に存在したのは郵便小包と「チッキ」とよばれた鉄道による運送サービスでした。私が小学生低学年かそれ以前でしょうか。母親が実家からチッキで送られた荷物を受け取りに自動車で名古屋駅まで行くのに連れて行かれた記憶がうっすらと残っています。母は幼い私を家に残しておけないので一緒に車に乗せていったのでしょう。駅と駅の間しか輸送することのできない不便なシステムだったのですね。
さて、私が中学生くらいのころに「宅配便」が登場しました。年老いた母親からの電話で「荷物を送ったよ」告げられる都会暮らしの主婦の家に、まさにその電話の最中に荷物が届く、というCMをよく覚えています。子ども時代のチッキのシチュエーションとのコントラストがそれほどに印象的だった、ということでしょうか。
さて、この宅配便のサービス、確かにチッキよりは便利かも知れません。でも郵便小包とは基本的には同じサービスなのではないか、と思う人もいるでしょう。ですが、宅急便が登場した当時の実感からすれば全く次元の異なるサービスでした。同じことをするサービスではありますが、当時の郵便小包の配送に比べて宅急便のスピードは群の抜いていたのです。まさに宅「急」便でした。でした、と過去形で述べていますが、これは別に宅急便が今では遅くなった、という意味ではありません。郵便小包が早くなって差が目立たなくなったということです。
「宅急便」の登場は物流のイノーベションであり、宅配便の存在を前提とした通販の広がり、そしてネット利用の一般化によって実現した物流の本格的な革新の起点のひとつとなったのでした。宅配便の先駆けとしての「宅急便」が時として一般的な言葉のように用いられるのも、この経緯を前提とすれば当然のことと言えるかも知れません。