映画「地球は壊滅する」(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
いや、凄いタイトルですよね。これは1965年のアメリカ映画。つまり今から半世紀以上前の映画で、当時の感覚では「有り」のタイトルだったのではないでしょうか。ちなみに原題は「Crack in the World」で、こちらのタイトルの方が内容をちゃんと反映していると言えるでしょう。
地球の地下深くからマグマを取り出し、その熱を利用することで実質的に無限のエネルギーを手に入れる。そんな計画が(おそらく)英国によってアフリカ大陸で実施されている。マグマを取り出すための長大な掘削孔が掘られているが、マグマに到達する直前に強固な岩盤の存在によって作業は滞っていた。その解決策として核ミサイルの利用が提案されたのだが……
というのがこの映画のスタート。核爆発によって岩盤を打ち破ることは出来るが、果たして影響はそれに留まるのか。すでに地下核実験の影響を受け続けてきた地殻の大崩壊への最後の一撃になるのではないか、と主張する若手科学者がこの物語の主人公です。
もちろん「地球は壊滅する」というタイトルの通り、核ミサイルの使用は最悪の結果をもたらします。地殻に大きな亀裂(まさに原題の「Crack in the World」です)が生じ、アフリカ大陸からインド洋にかけて地球を一周する勢いで進んでゆくのです。このままでは地球は真っ二つになってしまう。どうやってこの亀裂を止めれば良いのだろうか。
とまあ、なんとも規模の大きなお話になってゆくのですが、私が少し驚いたのはこの映画が「核の脅威」を扱った映画(かなりの変化球ですが)だったということです。
実はこの映画、私は子供時代にテレビで放送していたものを見たことがあるのです。でも核ミサイルの下りは完全に忘れていました。
この手のディザスター・パニック映画は「とんでもない大災害」が一番の売り。でも、なんでそんな大災害が起こるのか、もっというとなんで今まで起こったことのない大災害が今起こるのか、という理由付けが欲しいところです。この映画が作られた1965年ごろの世界の状況では「核」の存在の有無が過去と現在とを分ける理由付けとして相応しいものだったのでしょう。そういう意味では「核」によって巨大化した生物が襲ってくる映画、たとえば1954年の東宝映画「ゴジラ」と同じ流れにある映画ということも出来ると思います。
さて、この「地球が地球が大ピンチ」な状況にどう対処するのか。主人公達は亀裂の進む先に大きな孔を空けて亀裂のそれ以上の進行を食い止める、という手段を提案します。真ん中に孔を空けたベニヤ板を端から引き裂いていって、その裂け目が孔に届いたところで板の破壊がとまる、というデモンストレーションを見せながらの説明シーン、子供時代に見たことを覚えていたのですが、そのときに板ではなくて紙だと記憶していました。当時のテレビの映像ではよく分からなかったのかも知れませんね。
どんどん進行する亀裂の前にどうやって大きな孔を準備するのか。亀裂の進路上にある火山の噴火口を利用し、その中に核爆弾を投入して孔を広げる、という作戦が立案されます。主人公は灼熱の火山噴火口に水爆入りのカプセルを投入するミッションに志願します。耐火服を着込み、過酷な状況下でワイヤーでつるされた状態でもどかしい作業する、というこの辺りの絵作り、なんとなく「ゴジラ」のオキシジェンデストロイヤー設置のシークエンスを思い起こさせます。
とはいえ、です。アメリカ映画と日本人の作る映画にはやはり大きな違いがあります。火山に水爆で爆破して大爆発が起こる(これは実際の水爆実験の資料映像を流用しているのだと思います)のですが、その様子を観察している主人公達がほとんどその影響を受けないのです。いや、あんな爆発があれば爆破の衝撃波や、すくなくとも突風くらいの描写があるべきなのでは。アメリカの映画人は核爆発というものをかるく見過ぎですよね。
この「毒をもって毒を制す」とうか「核をもって核を制す」作戦、やはり、とうか、当然、というか一見成功に見えるのですが思いも寄らぬ展開を迎えます。そして事態はとてつもない結末へとむかうのですが……今回はネタバレはなしにしておきましょう。
本作は、やはり半世紀前の古い映画なので誰にでもお勧め、というわけには行きません。でも私の様な古の特撮好きには堪らない映画でしたね。
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