上皿天秤が測定するのは重量か質量か?(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
「上皿天秤」はいまでも使われているのでしょうか?私が中学生のころには一番簡単な「重さ」を計る道具は上皿天秤でしたから、中学の理科の実験で上皿天秤を使った記憶があります。
そう思って調べてみると「NHK for School」に上皿天秤の使い方の解説動画が上がっていました。「中学」と注記があるので、いまの中学生も上皿天秤を使うのでしょう。
さて、なぜいきなり「上皿天秤」なのか、ですが先の質量と重量の話と関係しています。子どもの頃、「上皿天秤」は(重量ではなくて)質量を計っているのだ、という説明があったことを思い出したのです。
日常生活ではなんとなく「重さ」と考えていますが、厳密には「質量」と「重量」の二つの意味があります。「質量」は有名な力学の基礎式
F = ma
に現れる m の事。物体にかかる力と加速度の比例定数のことです。
その一方で「重量」は重力によって物体が地面に引き寄せられる力の大きさです。重力は場所によってわずかに異なるので、じつは重量は一定ではありません。極端な話、例えば月に行けば物体の重量は六分の一になってしまいます。ところが月に行っても質量は変わりません。
さて、上皿天秤の話に戻りましょう。月では物体の重量は六分の一になるのですが、上皿天秤で計る「重さ」は変わらない。上皿天秤作用する力は六分の一になった重量の方なのですが、これ一体どうしてでしょう?
上皿天秤は分銅と対象の物体の「重さ」を比べているだけだ、というのがポイントです。月では物体の重量は六分の一となりますが、分銅も同時に六分の一の重量になるのです。上皿天秤にかかる力が同じ比率で変化するので、対象の物体は同じ量の分銅とつり合うのです。分銅の「質量」が分かっているのでその比率から分かるのも対象物の「質量」だ、という訳です。
「解説」カテゴリの記事
- 災害発生時の通信手段について(片桐教授)(2019.03.15)
- 湿度3%の世界(江頭教授)(2019.03.08)
- 歯ブラシ以前の歯磨き(江頭教授)(2019.03.01)
- 環境科学の憂鬱(江頭教授)(2019.02.26)
- 購買力平価のはなし(江頭教授)(2019.02.19)