10mを超える大樹でも水を吸い上げられるのは何故なのか?(江頭教授)
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私が担当している「サステイナブル環境化学」の授業では大気に関する講義の導入として「大気の厚さはどのくらいか」を計算してみよう、という問題を出しています。考え方は以前の記事にも書いたのですが「大気圧、約0.1MPa」につり合うだけの圧力を生み出す空気の量はどのくらいか、というもの。
例えば水銀なら760mmの高さの水銀が大気圧とつり合う(これは昔の圧力の単位mmHgの起源ですよね)、水だったら10mの高さの水柱とつり合う、という訳です。
さて、この話のついでに「水を10m以上吸い上げることはできない」という話をしたところ、学生さんから「なら10mを超える大樹はどうやって水を吸い上げているのでしょうか?」という質問をもらいました。
これは「良い質問」です。とくに授業で説明された内容が、自分が既に知っている他の知識(この場合は10mを超える大樹が存在するということ)と矛盾していないかを検討している点が素晴らしい。少しオーバーな言い方ですが「統一された視点で自然を理解する」という姿勢の表れというべきでしょう。
で、回答は日本植物生理学会のこちらのページを参照してください……でも良いのですが、少し説明を加えましょう。(同じ様な疑問を持つ人は居る、ということですね。)
問題を整理しましょう。まず「水を10m以上吸い上げることはできない」のは何故か、という話から。
高さ10m以上の場所からパイプを下ろして水面につけて、そのパイプの中の空気を吸い出す、という作業をしたと考えてみます。パイプの中が減圧になるに従ってパイプの中の水面は次第に上昇してくるはずです。これはパイプの内と外の圧力差をバランスさせるため、差が大きくなるだけ水柱の高さが長くなる必要があるからですね。でもパイプの内側の圧力はどんなにポンプが頑張っても0以下になることはできません。水位の上昇はそこでストップするのですが、その長さが約10m、ということです。(本当はポンプの内側の圧力は0に到達することはできず、その温度でも水の蒸気圧になると思います。)
さて、上の議論のポイントは水に作用する力として圧力と重力しか考えに入れていない点です。10mを超える大樹が水を吸い上げているのは事実なのですから、この圧力と重力以外に何かの力が作用している、と考えるべきですよね。もちろん、重力と圧力が作用しなくなるはずはないので、それ以上に大きな力が作用していることになります。
まず、考えるべきなのは植物の中を流れているのはただの水ではない、という点。
そしてもう一つ。植物のなかで水が流れる場所が非常に小さいとうこと。いや、縦方向は10m以上で十分大きいのですが、横方向、というかパイプの径は目に見えないほど小さいのです。
まず一つ目のポイント、つまり植物の中の水が純粋な水ではない、という点から一つの力として浸透圧が候補に挙がってきます。
そして二つ目のポイント、つまり植物の中の水の通り道(導管)は非常に径が細い、ということから表面張力(あるいは界面張力)も候補になるでしょう。
先に紹介した「植物Q&A」の回答には「根圧」「毛細管現象」という上記の二つの力に対応した説明が成されています。
でも、それらだけで説明するのは不充分だ、というのが結論となっているのが面白いところなのですが、これについては稿を改めて説明したいと思います。
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