「電子天秤の代わりにキッチンスケールを使う」のは有りか無しか(江頭教授)
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「はかり」いえ、秤、と書くべきでしょうか。ともかく、重さを測る道具のことです。今回は身の回りにある秤について考えてみたいと思います。
普通に生活をしている中で重さを測る機会はそれほど多くはないでしょう。一番ありそうなのは体重を測ること。一般の家庭でも体重計(ヘルスメーター)がある家は多いのではないでしょうか。最大100~120kgくらい。1kg~0.1kg刻みで体重を測ることができるものが普通です。まあ、0.1kg刻みで重さが分かっても、食べたり飲んだりすれば体重は変化するのでそれほど意味は無いかも知れません。
その他では、料理の際に使う秤があります。昔はバネと歯車で皿に載せたモノの重さを表示する調理用の秤が使われていましたが、最近は電子式で液晶表示のスマートな秤が一般的です。「キッチンスケール」と、呼び方もスマートになっていますね。こちらは最大が1~3kgぐらい。1g ぐらいの精度のものが一般的です。0.1g精度のモノもある様ですが、これは比較的軽いモノを測定している時に限定された精度でしょう。
家庭で見かける秤はこのぐらいでしょうか。
では、これらの秤と化学の実験で使用する天秤の違いはどこにあるのでしょうか。端的に言って「電子天秤の代わりにキッチンスケールを使う」のは有りか無しか、皆さんはどう考えますか?
私の答えは、皆さん予想通りかと思いますが、「場合による」です。
まず、キッチンスケールと電子天秤とでは精度が全く違います。もちろん、精度1gの電子天秤というものもあるかも知れません。(フルスケール100kgとかならありそう。)しかし、一般に化学の実験でつかう電子天秤は0.001g = 1mgの精度を持つもので、場合によってはもう一桁、0.1mgの精度のものが使われています。しかも、この精度はキッチンスケールとは違って、測定範囲内ならどんな重さでも保証されています。一部のキッチンスケールの様に「100g以下なら精度0.1g」などの制約はありません。薬品を測る場合、特に薬包紙ではなくビーカーの様な重いものを入れ物(風袋とよびます)として用いる場合を考えると、精度が測定重量によって変わってしまっては困ってしまいます。
定量分析の実験のように精度が求められる実験で、量を決める際に基準として用いられるのはやはり重さの測定値です。そう考えると「キッチンスケール」では力不足ですね。
では、「キッチンスケール」でも十分な用途はあるのでしょうか。もちろん、大体○○g、という測定は化学実験の際にもありますから一部の用途には使う事ができると思います。とはいえ、キッチンスケールですべてをまかなうのはなかなか難しいのではないでしょうか。
電子天秤があるならそちらを使うでしょうから「電子天秤の代わりにキッチンスケールを使う」は有りか無しかと言えば場合によっては「有り」ですが、ほとんどのケースでは「無し」と考えるのが現実的でしょう。
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