「科学的に証明」? (「科学」はなぜ正しいのか? その3)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
「いや、証明するのは数学だから。」
だよねー、と思った人には特に言うことはありません。私はこの「科学的に証明」されているという表現が気になって仕方がないのです。
さて、数学での「証明」というのはある前提にもとづいて結論が理論的に導き出される過程を示すことです。この「前提」を突き詰めると「公理」にまで到達します。「公理」は一つ(あるいは一セット)とは限りません。新しい「公理」をワンセットつくれば、それは新しい数学をつくることでもあるのです。
「証明されている」といえば「正しい」ということを意味している様に聞こえますが、それは「公理」が正しければ、という条件つきで正しいに過ぎません。ですが、逆に「公理」が正しければ証明された命題は絶対に正しいわけで、その意味でなら「証明」されたことは完全に正しいと言えるでしょう。
その一方で、科学の正しさの由来は「実験によって確認されている」という事実から、そしてその正しさが保証されるのは「理論と実験が矛盾したら理論を修正」するからです。ですから何かの主張が科学に基づいて正しいと言う場合、その確実性の程度は元になった理論がどの程度実験で確認されているか、によっていろいろだと考えるべきです。比較的実績のすくない理論に基づいた主張は現実と矛盾して修正を余儀なくされる可能性がある、有り体に言えば間違っている可能性があるのです。
数学的に「証明」された主張の正しさは、公理を前提とすれば絶対的です。それとくらべて科学の主張の正しさは常に条件付きです。当然ながら、非常に多くの実績があって信頼性が高い主張もあれば、そうでもない主張もあってケースバイケースです。
ある科学的な主張がどの程度正しいと考えられるのか、それを判断するには元になった理論を良く理解し、どこでどのように使われて確認されているかを把握している必要があります。それができる人は科学者・専門家だけですから科学者が他の人たちに判断の結果を伝えなければなりません。
そのときの言葉として
「科学的に証明」されている
という表現が使われるとしたら、あまり良い表現とは言えませんね。数学的な主張の(公理を前提とした)正しさを形容詞として用い、その科学的な主張の信頼性を最大限アピールする表現となっているのですが、専門家以外の人が聞いて本気にしたら大変です。こんな言い方をして、もしその主張が間違っていたら、言った専門家の信頼性は地に落ちてしまいますからね。
実は法律用語にも証明という言葉を使う「証明責任」という言い回しがあるそうです。立証責任とか挙証責任に近い意味だそうですが、民事裁判で主に使われているとか。でも、この意味でも「科学的に証明する」は変ですよね。「科学者が証明する」というのはありそうですが、証明する人が科学者だった、とか、科学者だったから証明する立場になった、ということでしょう。科学の方法論とは直接は関係していませんね。
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