アレニウスプロットと活性化エネルギー(江頭教授)
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化学反応は一般に温度が高いほど早くなる。では、具体的には温度が何度上がると何倍になるのでしょうか?こんな疑問をもった昔の化学者の研究成果は一つの式となってまとめられ、現在でもその名前が残っています。それが「アレニウスの式」。具体的には以下の様な式です。
式中のR、Tはそれぞれガス定数と絶対温度。Aは定数で、Eは活性化エネルギーと呼ばれています。左辺は反応速度の濃度依存性を除いた反応速度定数で、濃度一定の時の反応速度を比べた、とみても良いでしょう。
温度 T が大きくなると (E/RT) は小さくなる。マイナスの符号がついた (-E/RT) は逆に大きくなるので exp(-E/RT) も大きくなる。この式は温度の上昇にともなって反応速度が速くなることを反映しています。
この式の形、なんともややこしいのですが、これが実験に合うのだから仕方がないですね。我々の方が式を分かりやすく示す方法を探すべきだ、ということで反応速度のデータ整理ではこのアレニウスの式を念頭にアレニウスプロットというグラフが書かれます。
アレニウスの式の両辺の対数をとると
となります。したがって「1/T」をx軸に「反応速度定数の対数」をy軸にとったグラフをつくるとアレニウスの式に従うデータは傾きが E/R の直線になります。
実際には温度を変えて反応速度を測定する実験を行い、得られた反応速度定数の対数をプロットする。まず直線になるかどうかでアレニウスの式に従うかどうかを判断。OKなら傾きから活性化エネルギーを求める、といった具合です。
さて、ここでは「反応速度定数の対数をプロット」と軽く書きました。PC等が使える様になった現在では本当に簡単な作業なのですが、PCどころか電卓すらない時代にはどうしていたのでしょうか。対数表を読んで変換していた?いえいえ、「対数をプロット」するための特別なグラフ用紙を使っていたのです。
通常のグラフ用紙には均等な間隔で目盛りが付けてありますが、対数グラフ用のグラフ用紙では軸に対数間隔での目盛りがついています。この目盛りに従ってデータをプロットするとあら不思議、対数の計算をしなくても対数のプロットができてしまう、と言うわけです。
縦軸、横軸両方を対数軸としたものが「両対数グラフ用紙」片方だけが対数軸のものは「片対数グラフ用紙」と呼ばれます。
さて、アレニウスプロットには「片対数グラフ用紙」が利用されています。市販されている「片対数グラフ用紙」ではA4の用紙を縦につかうもので横軸には1mmが一目盛りで180目盛りを、縦軸には常用対数で4サイクル(10000倍)の目盛りを印刷したものが一般的でした。(他のサイズのものもありますが手に入り難い上に値段が高い。)この一般的な片対数グラフ用の横軸に1000/Tを、縦軸に反応速度定数をプロットするのが一般的なアレニウスプロットの書き方でした。
グラフのサイズとプロットの仕方が決まっているので、当時はアレニウスプロットを見ただけで大体どの程度の活性化エネルギーか目星がついたものです。現在はPC上で自由にグラフを作れる、それ自体は便利なのですが、この「見ただけで活性化エネルギーが分かる」ことがなくなったのだけは少し不便だと思いますね。
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