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面白い話をする人は同じ話を何回もする(できる)人だ、ということ(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

「面白い話をする人」にあなたは出会ったことがあるでしょうか。いえ、別に漫才師や落語家のことではありません。身近に接する人、いえ、身近ではなくても知り合いの中にも、話をしていて楽しい人はたくさんいるでしょう。でも私がここで「面白い話をする人」と呼んでいるのは、会話の中で少しまとまったお話、起承転結やオチがしっかりついている話をしてくれる人のことです。

 私が大学院の修士課程に入ったときの教授が、まさにこの「面白い話をする人」でした。「面白い」といっても単なる笑い話だけではありません。(いや、それも多かったかもしれませんが。)先生自らが実験した興味深い現象の話、論文で読んだ注目すべき概念、有名な科学者に会って話を聞いてもらったときの印象など、研究に関する話題も含めた「面白い話」でした。

 先生は当時、国立の研究所に所属し、大学は兼任でした。週1日か2日の出勤だったと記憶しています。本来、私たちのような修士の1、2年生が気軽に話を聞けるような方ではなかったのですが、大学にいる間には空き時間ができやすかったのでしょう。その時間を利用して、私たちにいろいろな「面白い話」をしてくれたのでした。

 さて、物怖じしないと言うか、血気盛んと言いますか。もっとはっきり「生意気」と形容すべきか。当時の私たちは先生を囲んでたくさんの「面白い話」を聞かせてもらっておきながら、こんなことを言うようになってきたのです。

「あっ、先生、その話、前にもしてますよ!」

「えっ、参ったなあ」と先生は笑っていたのですが、今にして思うと……。

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 当時の私は、この先生のように面白い話をしたいと考えていました。(つまり、自分の話が面白くないということを気にしていたのですね。)そう思って先生の話を観察していたのですが、それで気がついたのは、先生のように話のうまい人は「起承転結やオチまで含めた話の概要(ネタですね)をたくさん頭の中にストックしていて、会話の流れに応じてそのストックの中から適切なネタを出してくるのだ」ということでした。

 それはそうですよね。どんなに頭の回転が速い人でも、臨機応変に話をしながら並行して話をまとめ上げるなんてことはできるはずがありません。印象的なことがあれば頭の中で話を整理する。そのネタをいろいろな場所で話しながら完成度を上げる。そんな風に新しい話のネタを増やしながら、たくさんのネタのストックをつくっているのでしょう。豊富なストックの中から、その場にふさわしいネタを披露することで「この先生は面白い話をする人だ」という評価を得ているわけです。

 普通の人の先生への印象はそんなところでしょうが、当時の私たちは先生の話を聞く時間がたくさんありました(なんて贅沢な!)。しかも、先生から見れば年端もいかぬ研究者の卵たち。話せるネタにも制限があったでしょうから、いつかは同じネタを繰り返すことになったのでしょう。その結果、

「あっ、先生、その話、前にもしてますよ!」

となったわけです。同じ話を何回もする、と指摘されて先生は気恥ずかしそうでしたが、考えてみれば、面白い話をする人は同じ話を何回もできる人であって、そうでなければ面白い話なんてできないわけです。

 こんなやり取りのおかげで、私は「ネタのストック」の存在に気が付くことができました。以来、自分でもそのストックをつくるような習慣ができ、おかげさまで会話が途切れないようにする程度の話術を身につけることができたと思っています。それを言ったら、このブログの記事のかなりの部分も、私の「ネタのストック」から書かれているのです。

 さて、今日は2024年12月31日。今年のブログはこれが最後の記事となります。今年2024年には、若かりし日の私たちにたくさんの「面白い話」をしてくれた田中一宜先生の訃報に触れることとなりました。いろいろなことがあった一年でしたが、これが私にとってもっとも悲しいことの一つです。

 

江頭 靖幸

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