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実験中には手書きのグラフを書くのがお勧めです(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 本学工学部応用化学科の1年生のカリキュラムにはもちろん、学生実験があります。名称は「工学基礎実験(C)」。最後に(C)とあるのは化学系の実験だから。以前はセメスター制だったので夏学期の「工学基礎実験(C)Ⅰ」と冬学期の「工学基礎実験(C)Ⅱ」を実施していましたが、新しいカリキュラムからはクォーター制になったので「工学基礎実験(C)Ⅰ-A」「工学基礎実験(C)Ⅰ-B」「工学基礎実験(C)Ⅱ-A」「工学基礎実験(C)Ⅱ-B」の四つで実施しています。

 私もこの実験の「工学基礎実験(C)Ⅱ-A」「工学基礎実験(C)Ⅱ-B」を担当しているのですが、ついこないだ(第4クォーターなので「工学基礎実験(C)Ⅱ-B」です)担当した実験は色素の漂白剤による分解反応の反応速度を求める、というもの。色素なので濃度の測定は吸光光度計で比較的簡単にリアルタイムで観測が可能です。

 色素と漂白剤を混ぜて色が薄くなっていく様子を吸光光度計で測る、という実験なので色素の濃度変化、つまり吸光度の時間変化が分光光度計から出力されます。このとき、学生さん達にやってもらったのが「実験データをグラフ用紙に手書きする」ということでした。

いや、21世紀も四半世紀が終わろうとしているこのご時世に手書きなんて。そもそもグラフ用紙なんて誰も持っていませんよ。

そう言われるのもしかたないことかも。しかし、この「実験データをグラフ用紙に手書きする」ということには明白なメリットがあるのです。

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 実験で取得されたデータは全て正しい、なんてことが無いことは実際に実験をしたことがある人なら必ず分かっているはずです。単なる記入の間違い、目盛りの読み違い、実験操作のミスから世紀の大発見につながる新しい現象との出会い。最後のは別として、普通に実験をしていても明らかにおかしなデータに出会うことがあります。例えば、先ほど紹介した実験の例では「分解反応の途中で一瞬だけ色素の濃度が増える」とか。では、この明らかにおかしなデータがでたらどうしたら良いのでしょうか?

 勝手にデータを削除というのは頂けません。まずはそのデータが「単なる記入の間違い」や「目盛りの読み違い」ではないのか、確認するべきでしょう。「実験操作のミス」が疑われるなら再度実験をやり直してみるべきです。

 で、問題になるのが、確認作業はその実験を実施している最中にしかできないということ。実験のやり直しも、一度実験を終了してしまったら再度の準備が、下手をすると日程の確保から必要になるということです。つまり、おかしなデータの問題は早く見つかれば早く見つかるほど簡単に解決できる。その一方で、一旦実験が終了した後でおかしなデータを見つけたとしても文字通り「後の祭り」なのです。

 「実験中には手書きのグラフを書く」のがお勧めな理由は、手書きのグラフはリアルタイムで「おかしなデータ」の存在を教えてくれるからです。データが出るたびにグラフ用紙にプロットすれば「おかしなデータ」はその場で見つかります。「おっとおかしい、読み間違えかな。」これでかなりの「おかしなデータ」は解決。それでも変なら再度実験操作をくり返すことになりますが、一から実験を始める場合に比べたずっと簡単に「おかしなデータ」を修正することができるでしょう。

 それに対して「実験中は言われたとおりにデータを取るだけ。解析は家に帰ってから」などとやっていると「おかしなデータ」の存在をどうするかでいらぬ悩みを抱えることに。

 皆さんも「実験中には手書きのグラフを書く」という少しの手間を惜しんで無駄な悩みに時間を費やさないようにしましょうね。

 

江頭 靖幸

 

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