核融合の現在(江頭教授)
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昨日のこのブログでは、工学部応用化学科の1年生諸君の「核融合」への熱い想いに刺激されて昔に書いた核融合についての記事を再録しました。そこでは国際協力による核融合実験炉 ITER(イーター) のWEBサイトを紹介して、その中からこんな引用をしています。
「ITER」は、国際熱核融合実験炉が語源で、イーターと読みます。 ITER計画は、平和目的の核融合エネルギーが科学技術的に成立することを実証する為に、人類初の核融合実験炉を実現しようとする超大型国際プロジェクトです。ラテン語で道や旅という意味を持つ「ITER」には、核融合実用化への道・地球のための国際協力への道という願いが込められています。
ITER計画は、2025年の運転開始を目指し(2016年6月ITER理事会で決定)、日本・欧州連合(EU)・ロシア・米国・韓国・中国・インドの7極により進められています。
いや、前半は良いのですが……。なんと「2025年の運転開始」とあります。今年は、もう2025年。そろそろ核融合炉が稼働するのでしょうか。ワクワク。いや、それにしても世間は盛り上がっていないけど、どうして?
ITER建設サイト外観写真(ITER国内機関のWEBサイトより)
種明かしをするとITER(イーター) のWEBサイトに今書かれている内容は以下の様なものなのです。
ITER機構ウェブサイト(2024年7月更新)より:2024年6月に開催された第34回ITER理事会において、ITER機構は、2016年理事会で発表された計画に代わる新たな基本計画(ベースライン)案を発表しました。
つまり計画は変更されているのです。そして、
新しい計画では、完全な磁気エネルギーの達成が2036年となり、2016年に合意された計画より3年遅れとなります。また、重水素-トリチウム運転段階が2039年となり、4年の遅れが見込まれています。
とつづきます。
2016年6月に決定した目標が約10年後の2025年運転開始。そして新しい2024年の計画では2036年とか2039年とか、やはり10年以上先の予定を示しています。
部外者の立場で、あまり知識の無い者が言うのも何ですが、このような長期の目標を掲げたプロジェクトというものに遅延は付きものの様に思えます。そもそも新規の開発研究のための施設造りなのですから完璧なスケジュールを立てることがそもそも難しい、というか不可能なはず。本当はより短いスパンで確実な目標を積み重ねるのが正しいやり方だとは思いますが、核融合炉のような費用のかかるビッグプロジェクトではそれも難しいのでしょう。
結局のところ、今の学生諸君はともかく、60代の私が核融合炉の実用化を目にすることができるのか、やや心許ないとも感じる現状です。
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