触媒としての水銀(江頭教授)
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水俣病の原因物質となったメチル水銀、この物質が当時のアセトアルデヒドの製造プロセスで使用された水銀触媒から発生したものだった、という話を先日こちらのブログ記事で紹介しました。現在のアセトアルデヒド製造プロセスでは水銀触媒は使わない、ということも併せて紹介しましたが、では水銀触媒は現在まったく使われないのか、というとそうでもないのです。
環境省の”「水銀に関する水俣条約」の概要”という資料をみると、世界での水銀需要の20%が「塩化ビニルモノマー製造工程」で使用されていることが分かります。(同資料には13%が「塩素アルカリ工業」で使用されていることも記されています。これは水銀法による食塩の電気分解に対応していますが、日本ではすでに全廃されています。)
水銀のリスク低減を目指す「水俣条約」では
塩化ビニルモノマー、ポリウレタンなどの製造プロセスでの水銀使用を削減。
とされていますから、塩化ビニル製造用の触媒としての水銀の利用も廃止に向かうと思われます。
水銀触媒は、それこそ教科書的なレベルで良く知られたものですが、その有害性を考えると将来的には利用されなくなると考えられます。今後、水銀をつかった合成プロセスが工業的に実用化されることは難しくなるでしょうから、研究の立場でも水銀を使う機会は減ってゆくのでしょう。やがて教科書でも触れられなくなり、水銀触媒は歴史的な知識だけの存在になるかも知れません。
こう考えてくると少し寂しい気もしますが、これはセンチメンタリズムというものでしょう。少なくとも工学の立場からすれば、触媒の価値は実用化できるか否かにかかっています。水銀の有害性が問題となれば、水銀以外の物質で同等か、それ以上の性能を発揮する触媒を開発すれば良いのですから。
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