電気ポットはどのくらいのスピードで冷えるのか?(江頭教授)
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ここ最近の記事では新しく研究室に購入した電気ポットの話をしています。前回はポットからどれくらいの熱が逃げるかをポットが100℃から90℃まで冷える時間から見積もりました。
さて、今回もその続きのお話ですが、はい、正直に言いましょう。前回の見積のやり方、伝熱工学(物を温めたり冷やしたりするための工学です)の教育を受けた人間から見れば、雑過ぎる、とお叱りをうけるやり方でした。私も伝熱工学は勉強したのですがね。(国井先生、ごめんなさい!)
電気ポットを加熱する場合、電気のエネルギーが熱に変換されて強制的に一定のスピードでポットを温めます。しかしポットが冷える場合は、ポットの熱は周囲へと逃げてゆく。その逃げてゆく速さは周囲との温度差によって変わります。ポットの温度が高いほど熱は逃げやすい。ポットが冷えるにしたがって熱は逃げにくくなり、ポットが周りと同じ温度になってしまえば熱の移動はストップします。極端な話、室温の方が高ければ熱はポットに向かって逆流することになります。ポットから熱が逃げるスピードはポットの温度の関数になっていないとおかしいわけですね。
さて、ポットの取説には沸いたお湯が冷えてポットの保温指定温度(90℃と70℃です。「マイコンポット」なので選択可能になっています。)に到達する時間も示されていました。これを利用してポットの温度の関数として熱の逃げる速度を定量化してみましょう。
具体的には前回の記事の写真を参照してもらうとして、取説の記述は「沸騰した水( 100 ℃ )が 90 ℃ まで冷えるのにかかる時間は約 35 分」そして「 70 ℃ まで冷えるのにかかる時間は約2時間40分( 160 分 )」となっています。この図では室温は 23 ℃ とのことですから、ポットのお湯と部屋の空気との温度差に比例して熱が逃げると仮定すると(詳細は省きますが)「お湯の温度ー室温」と「経過時間」の間には指数関数の関係があると期待できます。
指数関数の関係を確認するためには縦軸を対数軸とした片対数プロットをとって、直線になるかを確認すればよい。(これも詳細は省きます。)ということでグラフ化したのが以下の図。なかなかよい直線性が示されました。
Excelが作ってくれた関係式は温度差(y)は経過時間(x)に対して
y = 75.88 exp( -3.02 × 10-3x )
という関係を示しています。( Excel の仕様上、グラフの表示は有効桁が無茶苦茶になっていますがそこは目をつぶってください。)
うーん、ここは 温度差y は ΔTに、経過時間 x は t にした方が感じがでますね。
ΔT = 75.88 exp( -3.02 × 10-3 t )
さて、熱の逃げる速度をポットの温度の関数として示す、という目的のためにはもう一つ情報が必要です。それはポットの熱容量。これを C とすると(またまた詳細は省きますが)熱の逃げる速度は
3.02 × 10-3 C ΔT
となります。電気ポットの熱量は水が 3 L 分、それ以外のポットの見かけの熱容量が水 1.3 L 分だったので上記の式は
3.02 × 10-3 × ( 3.0 + 1.3 ) × 4.2 × 103 ΔT
で
54.54 ΔT
です。おっと、時間 t の単位が分で計算していました。これを秒に直すには60で割り算して
0.909 ΔT
となります。これで単位はWです。
90℃で保温されているポットから逃げる熱量はどの程度なのか、こちらの式で計算してみましょう。ΔT はポットの温度 90 ℃ から室温 23 ℃を引き算して 67 ℃。上記の式に代入すると
0.909 × 67 = 60.903 W
となりました。約 61 W。前回の見積 の 86 W より結構小さな値となりました。
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