電気ポットと材料の比熱について(江頭教授)
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またまた電気ポットのお話を。新しく研究室のために購入した電気ポット、取扱説明書に加熱に必要な時間、冷えてゆく時間のデータがあったので、それを利用して電気ポットの熱的な特性を定量化した、というお話しの続きです。
最新の記事(こちら)では、電気ポット本体(水を除いた部分)の見かけの比熱について「2.17 J/(℃g) 」で「水の約半分」という結論になりました。
では、この(見かけの)比熱から、この電気ポットの材料が何かを予想してみよう、というのが今回の趣旨です。こちらの記事で紹介した化学資料館で少し調べてみましょう。
まずは金属について。「化学便覧 基礎編 改訂6版」の第10章「表10.3-5 低温における単体の定圧モル熱容量」からデータを拾ってみましょう。
アルミニウムの298.15 K (25℃)での熱容量は 24.35 J K-1 mol-1
銅の25℃での熱容量は 24.43 J K-1 mol-1
鉄の25℃での熱容量は 25.0 J K-1 mol-1
となっています。水の比熱についての情報は別表(表10.3-9 101 325 Paにおける水の定圧比熱容量)に精度の高い数値が載っていて
水の25℃での熱容量は 4.1793 J K-1 g-1
だそうです。
熱容量が「水の約半分」なんてとんでもない。金属の熱容量は凄く大きいから電気ポットにはほとんど金属は使われていないのだろう。
などと言うと大きな間違いです。よく見てください。単位が違っていますよ!
電気ポットの(見かけの)熱容量から求めた比熱は質量基準の値です。(何でできているのか分からないのですから当然ですよね。)それに対して化学便覧のデータはモル熱容量です。これはいけない。単位を揃えないと。
さて、その結果が上の表です。
表にまとめるとよく分かるのですが、水の(g当りの)比熱はかなり大きい。水と比べると金属の比熱は5分の1から10分の1程度しかありません。水の分子量と比べると金属の原子量は大きい(最小のアルミニウムでも1.5倍)ので、g当りで比べると金属の方が小さくなるのですね。そもそもmol当りの熱容量でも水の方が大きいのですから勝負にならない訳です。
金属の比熱は「水の約半分」という電気ポットの(見かけの)熱容量とは比較にならないほど小さい。ということは、例え電気ポットの材料に金属が含まれているにしても、金属が主な材料ということはなさそうです。では、いったい電気ポットは何でできているのでしょうか。(この話、続きます!)
追記:今回は「モル当り」の記述が誤解を招きかねないお話しでしたが、表の金属のモル熱容量のデータをみると「モル当り」で考えることの重要性が分かるのではないでしょうか。アルミニウム、銅、鉄の熱容量はモル当りで考えるとほとんど同じ値になっています。これは偶然とは考え難いですから、金属の比熱についての理論的な研究のスタートは「モル基準で考える」ことだと言えるでしょう。
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