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「お七夜」と「初七日」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 これは私が子供のころに聞いた落語のネタです。赤ん坊が生まれた、という友達(けっこうぼけた性格です)のところにたずねて行った男とその友達との会話

おい、おまえのところ赤ん坊が生まれたんだって。いつ生まれたんだい?

うん、今日が初七日だ。

えっ、そうなのか。それは可哀想なことだったなあ。

「初七日」というのは人が亡くなってから7日目、という意味なのでこの男は赤ん坊が死産だった(あるいは生まれてまもなく死んだ)と思うわけです。ところが、この「初七日」というのは友達の勘違い。本当は「お七夜」だった、というオチ。「お七夜」は赤ん坊が生まれてから7日目の夜に子供の無事を祝い健康を願う儀式ですから、この友達の赤ん坊は無事なのですね。

 このお話、授業の中で「産業革命前の世界では赤ん坊が生まれてすぐに亡くなることが多くあった」という説明をしていたときに突然思い出しました。授業の中で紹介しようとも考えたのですが、いろいろな前提条件のあるネタで、今の学生さんには通用しないのではいかと思います。

 今の感覚なら、この友達が「初七日」と言った段階で

それを言うなら「お七夜」だろう

とツッコミを入れるのが自然ではないでしょうか。

Baby_umaretate

 これは落語のテンポの問題ではなく、そもそも今の我々に「赤ん坊が死産だったのかもしれない」と考えるバックグラウンドが無いと思うのです。実際現在の我々は、誰かが妊娠したという話を聞いたときに普通に生まれてくることが当然であると考えているのではないでしょうか。そして「死産」という話を聞いたとすればショックを受ける。赤ん坊の話で死産の可能性をほのめかすような話はそもそも洒落にならないので、落語のネタには不適切とさえ言えるかも知れません。

 では私がこのネタを聞いたころはどうだったのでしょうか。私の子供時代ですから1970年ごろだと思いますが、その当時落語を聞くメインの対象は戦中派の人たちだったと思われます。当時の状況から考えて「死産」という話はより身近に感じられていて、それを冗句のネタにすることにも抵抗感が少なかったのでしょう。

 そもそも、「お七夜」という習慣が存在していること自体、幼児死亡率が高かったことが影響しているのでは。赤ん坊が7日間生き延びたことを祝う、というのは7日間生きられない場合もそれなりに多かったからこそでしょう。産業革命前、日本で言えば江戸時代以前の社会であれば「お七夜」という習慣には十分実質的な意味があったのだと思われます。

 そう考えると、冒頭の話は昔の幼児死亡率が高い時代には落語のネタとして成立しないのではないでしょうか。

 そして今のように幼児死亡率が低い時代にも通じない。このネタが通用したのは実はそれほど長い期間ではなかったのかも知れませんね。

 

江頭 靖幸

 

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