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そもそも「真空」の定義とは(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 前回の記事で身の回りの「真空」と呼ばれるものについていろいろと見てきました。どれも完全に何もない空間という意味での真空にはたどりついていませんでした。真空掃除機に至っては大気圧の半分にもならない。いや、これが真空って、と書いたのですが、ではそもそも真空とはどう定義されているのでしょうか。

 辞書を引く、よりもここはJISやISOなどを引用すべきでしょう。実はISOの規格は2019年に38 年ぶりに改訂されたとか。それを受けてJISの規格2021年に改正。こちらは22年ぶりの改正だそうです。何でそんなに詳しいかって?このお話、詳しく解説した元ネタがあるのです。

吉田 肇著「JIS Z 8126-1:2021 真空技術―用語―第1部:一般用語の改正」表面と真空Vol. 65, No. 8, pp. 367–371, 2022

https://doi.org/10.1380/vss.65.367

 さて、こちらの文献には以下の様な「真空」の定義について次のような記述が

真空は,新旧JISで大差なく,「通常の大気圧より低い圧力(分子密度)の気体で満たされた空間の状態」と定義されている。

な、なんだってー!? つまり大気圧より低ければ真空なわけ。それなら大気圧より2割~3割くらい圧力が低い「真空掃除機」も立派に「真空」な訳ですね。「おこがましい」なんて言ってすいませんでした。

 もっと言うと、この「通常の大気圧」というのもくせ者。1.013×105 Pa とかじゃないのです。ふわっと「通常の」なのです。いや、定義ってさあ、もう少しその……。

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 でも、このふわっとした表現は意図的なものだとか。たとえば1.013×105 Pa 以下、と定義した場合、天候や標高によって容易にその辺一帯が真空になってしまいます。題して「真空都市」とか。SF小説のタイトルみたいですね。(ちなみに上の図はCopilotに「真空都市」というお題で作成してもらったイラストです。)

 いささか脱線しましたが、この真空の定義につづいて上記の文献では。

“大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間の状態”を作るためには,その空間と大気とを隔てる壁(真空チャンバ),その空間の圧力を大気圧より低くするための機構(真空ポンプ),及び大気圧より低い圧力になったことを確認する手段(真空計)が必要である。

と述べられています。ここで真空とは、人間が作り出した低い圧力の空間のことを意味しているのです。「工学的な真空」とでもいいましょうか。

 その一方で「トリチェリの真空」で議論された、ある種哲学的な意味での「真空」は「本当に何もない空間」というものが存在している(例え到達することはできなくても)という認識、というか気づきのことでした。当時は圧力という概念すら無かったことに留意しましょう。空間にどのくらい物質が満たされているかの表現の1つとして圧力というものが認識され、その圧力には大小があって0にもなり得るのだ、という知識を得たこと。それが「真空」の発見なのですね。

 現実には、あるいは工学的には圧力が真の0の状態に到達することはおそらくできないのでしょう。その状態だけを真空とよぶとしたらこの言葉の工学的な意味は薄れてしまいます。ではある程度の圧力の存在を認めるとして……、圧力について特に意味のある境界点は見つからない、となれば大気の圧力までは「真空」と呼ぼう、というのが工学的な圧力の定義なのですね。

江頭 靖幸

 

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