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ハーバーとボッシュ、偉いのはどっち? 10年目 (江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 これは本学科1年生向けの「サステイナブル化学概論」というオムニバス形式の授業での私のレポート課題、本当は「どちらの業績を評価するか」という質問です。私の授業ではハーバーボッシュ法の説明をして、毎年この質問をすることにしています。

 ハーバーボッシュ法は空気に含まれる大量の窒素ガスを植物が利用できる形態に変化させる技術です。この方法でほぼ無尽蔵の窒素肥料を合成することが可能となり、80億を超える人口を支える現在の農業の礎となった偉大な発明です。

 ハーバーとボッシュ、フリッツ・ハーバーとカール・ボッシュ、の名前はこの空中窒素固定技術では必ず一緒に出てきます。しかし、その役割は大きく異なっていました。大ざっぱに言えば窒素、水素、アンモニアの平衡関係を解明し、高圧条件下で触媒を用い、比較的低温でアンモニアを合成する方法を考案したのがハーバーであり、高圧で水素を扱う場合に起きるいろいろな困難を一つ一つ解決して実用化したのがボッシュだ、という役割分担になります。

 とまあ、ここまでの文章は毎年のこと。で、今年の結果ですがなんとハーバーとボッシュがぴったり同点という珍しい結果に。

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 例年はボッシュよりハーバーを評価する、という意見が優勢でした。

「0から1へ、1からその先へ!」という言い方をすればハーバーは0を1にした人なわけですね。0を1にするのは天才的な発明だが、1をその先に進めることは技術の応用であり、敢えて言えばだれでもできる。そういう考えがあるのでしょうか。

 この考えかたはよく分かりますし、私自身も同じ様に考える面もあります。しかし、当時の状況を調べてみるとハーバーボッシュ法を教科書的に勉強したときとは少々ことなる印象を持ちます。

 まず、大気中の窒素分子を反応させてアンモニアや硝酸を得る、という技術の有用性は当時広く理解されていたという点。そしてハーバーがハーバーボッシュ法の基礎となる高圧で触媒存在下での熱化学反応という選択肢を選ぶ以前にも、放電を利用した方法など、別の手法も開発されていたという事。これらを考えるとハーバーのスタート地点はそれほど「0」でもなさそうです。

 その一方でボッシュによる工業化は単なる技術の応用とも言い切れない。高圧を利用した化学反応を実行する、という技術は当時は存在せず、ハーバーボッシュ法の実用化のなかで技術そのものが「0から」作られた、といっても良いのです。

 ならハーバーよりボッシュが偉いのかと言えばそれもまた微妙。ということで今回の「ハーバーとボッシュ、両者引き分け」というのは絶妙な落とし所のようにも思います。

江頭 靖幸

 

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