身近な真空はどのくらい「真空」なのか(江頭教授)
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前回の記事で「トリチェリの真空」について、真空とは言うもののその空間には水銀蒸気が満ちている、という話を書きました。自分で書いておいて何なのですが、ここで用いられている「真空」という言葉がもし「完全に何もない空間」を示しているのなら、そんな「真空」はいったいどこに存在しているのでしょうか。
世の中では「真空」ということばは結構使われています。すこし古いですが「真空管」など。LSI、IC、トランジスタなど半導体ベースの素子が開発される前、それらと同様の役割(整流や増幅)を担っていた電子デバイス(?)ですが、ガラス管に封入した電極間を電子が移動することを利用したものです。そのガラス管内部が「真空」に保たれていることから真空管と呼ばれるわけですね。
真空管内の圧力は 10-3~10-5 Pa 程度だとか。これと比べると「トリチェリの真空(20℃で1.7×10-7 Pa )」の方がよっぽど真空しているのですね。
ほかの例として「真空掃除機」はどうでしょうか?
掃除機内のタンクを真空にしてそこに空気を吸い込む、というのが真空掃除機なのですが、ではその真空というのはどの程度なのか。これは大気圧(約 100 kPa)からどの程度圧力が下がっているかで表現されるのですが、通常 20~30 kPa 程度だそうです。せいぜい大気圧から3割引き程度なのです。いや、それで「真空」ってちょっとおこがましくないですか。
さらに一般の人たちには縁が無いかもしれませんが真空乾燥機はどうでしょうか。化学の実験などで水や有機溶媒を乾燥させて薬品を精製する装置ですが、加熱する代わりに減圧することで乾燥を促進します。この場合の圧力は 10 Pa 程度。真空掃除機よりはましですが、これも「トリチェリの真空」にはかなわないのですね。
さて、いくつかの例を見てきましたが「真空」と言っても「完全に何もない空間」などは現実的には達成できていないことがほとんど、というか実際には達成できないのです。今までの話で「○○Pa程度」と真空の度合いが測定できている、ということそれ自体が「完全に何もない空間」では無いことを示していますよね。
話を戻すと、「トリチェリの真空」の発見が重要なのは「完全に何もない空間」が達成されたことではなく、「完全に何もない空間」としての真空が存在していることが認識された、というかそういう概念が創り出されたことです。同時に気圧の概念とその測定法が発展することで、いわゆる真空がどれくらい本当の真空に近づいているのか、が議論できるようになったことなのです。
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