拡散で分子が広がるのにどのくらいの時間がかかるか(江頭教授)
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こちらの記事の締めはこんな感じ。
これで「拡散で分子はどのくらいの距離まで広がるのか」という問題に解答する準備ができました。最初にまとめた1)2)の値を使って4)の「ある距離までどのくらいの時間で広がってくるか」について計算する……のは次の記事の課題としましょう。
お待たせしました。今回の記事がその「次の記事」ですよ!
おっと、これでは話が見えないですね。大気中の分子はものすごいスピード( 窒素分子なら約 520 m/s 、少し重い酸素分子だと約 480 m/s )で運動しているのにまっすぐ移動できる距離は極めて短い( 0.07 μm 程度 )。このためある程度の( 0.07 μm より長い)距離を移動するには衝突を繰りかえして時間がかかる。いえ、それ以前に一つの方向に移動することは出来なくて最初に居たポイントから四方八方に広がる、つまり拡散するのです。
さて件の記事ではこれらの数値の関係が以下の式で表されることを示しました。
えっと、記号を説明すると、大気中の分子のスピードが V、 分子がまっすぐ移動できる距離が λ、ある程度の距離が L、そしてかかる時間が t です。
V が 500 m/s、λ が 0.07 μm (つまり 0.07×10-6 m )、そして L は……そうですね 1 cm ( 1×10-2 m )としましょうか。
式にしたがって計算すると
t = 28.57 s
となります。つまり約30秒で 1 cm くらい広がるのですね。
分子が直進するなら30秒で 15000 m (つまり 15 km)移動しているはず。でも実際は 1 cm、つまり150万分の1程度しか移動できないのです。
別記事では空気の分子は1秒で 70億回衝突を繰りかえすのだ、という計算を示しました。30秒なら約2000億回の衝突によって「紆余曲折」することが分子が実際には「150万分の1程度しか移動できない」理由なのです。
如何でしょうか?こう説明されると分子の拡散というものが何となく実感でき……るわけないですよね!
私たちは分子の運動をシミュレーションなどで“見る”ことはできますが、時間やサイズを正確に“感じる”のは難しい、というかほぼ不可能です。それでも、分子の拡散現象を数式で説明し、それによって実際の現象を記述し、さらには予測することもできる。
これはなかなか凄いことではないでしょうか。
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