拡散で分子はどのくらいの距離まで広がるのか(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
ここのところ分子の熱速度と拡散による移動の速さとの違いについて書いているのですが、これまでに分かっていることを少しまとめてみましょう。
1)分子の熱速度は凄く速い。室温で「窒素分子なら約 520 m/s 、少し重い酸素分子だと約 480 m/s 」である。(こちらの記事)
2)でも分子はさらに凄い頻度で衝突を繰りかえしている。衝突無しで直進できる距離は 0.07 μm 程度。(これもこちらの記事 から)
3)衝突を繰りかえす分子は元いた位置から四方八方に拡散してゆく。拡散で広がる幅は経過時間には比例せず、経過時間の平方根に比例している。(前回の記事)
4)つまり、拡散の場合「速度」が一定ではない。ある距離を決めて、その距離までどのくらいの時間で広がってくるか、を議論すべき。(これも前回の記事)
ということになります。
さて、今回は4)で示した「ある距離までどのくらいの時間で広がってくるか」について答えようと思います。1)にある様な数百 m/s の熱速度(記号を V とします)で運動し、距離 0.07 μm ( λ としましょう)移動するたびに衝突で方向が変わる、そんな3次元のシミュレーションを行って、ある距離(これは L )の地点にそれなりの分子が到着するのにかかる時間(これは t )を計算すれば良いのですね。早速AIに……、いえいえ、今回は少しチートなテクニックを使うことにしましょう。
まず、シミュレーションを行う前にどんな答えが得られるか考えてみましょう。設定する値は距離 L で、計算のアウトプットは時間 t ですね。3)が示しているのは両者の間には
という関係があるということです。
この式は「比例記号」で結ばれていて等式にはなっていません。それはそうでしょう。左辺の単位は長さ( m とか )なのに右辺は時間のルートという変な単位です。等式で結ばれるはずはないですよね。
では、実際にシミュレーションを行って合理的な(物理的に正しい)結論が出たらどうなるのでしょうか。シミュレーションで必要な熱速度 V や直進する移動距離λは確実に結論の式に含まれるはずです。つまり
の様な式が結論となるはずです。おっと、ここで a や b は何らかの乗数です。そして物理的に正しい式なら単位系に依存しないはずなので無次元の係数を K として等式で結ばれた
という式が成り立つはずです。
次は、先ほど「何らかの」と言っておいた a や b を具体的に決めましょう。
まず、式の左辺の単位は長さの1乗ですね。右辺を a と b を使って表すと
となります。もう一つ。時間の単位についても考えましょう。左辺は時間に関係ないので0で、右辺も考えると
となります。この二つの式から
が得られます。元の式に代入すると
となります。 K は無次元の定数です。その正確な値は分かりませんが、そんなに(102とか)大きかったり、(10-7とか)小さかったりはしないでしょうから、
と書けます。あるいは t に対して解いて
としましょうか。
これで「拡散で分子はどのくらいの距離まで広がるのか」という問題に解答する準備ができました。最初にまとめた1)2)の値を使って4)の「ある距離までどのくらいの時間で広がってくるか」について計算する……のは次の記事の課題としましょう。
「解説」カテゴリの記事
- 災害発生時の通信手段について(片桐教授)(2019.03.15)
- 湿度3%の世界(江頭教授)(2019.03.08)
- 歯ブラシ以前の歯磨き(江頭教授)(2019.03.01)
- 環境科学の憂鬱(江頭教授)(2019.02.26)
- 購買力平価のはなし(江頭教授)(2019.02.19)













