ブラウン運動は永久機関なのか?(江頭教授)
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以前の記事でブラウン運動について紹介しました。微粒子が液体(あるいは気体)の中で運動する、という現象。その原因は微粒子にランダムに衝突する分子の揺らぎにあるのです。ブラウン運動の存在が分子が実在を示している、という意味で科学史的にも有名な現象なのです。
さて、ただの粒子があたかも生き物の様に動き回るというのですから、それを何か有効利用できないか、と考えるのが人の常というものでしょう。この運動からエネルギーを取り出せれば永久機関になるのでは。
残念ながら、というか、当然というか、そういうことはできません。微粒子が運動しているといってもその方向はランダム。下の図では1コの粒子に注目しているので何となくどこかに向かって運動しているようにも見えますが、複数の粒子を集めて観察すると出発点から粒子が移動する方向はてんでんばらばら。それがたくさん集まるとあら不思議、前後左右上下にきれいに分布してしまいます。結局重心は最初の出発点から動かないのです。
これは気体の分子が凄いスピード(常温でも秒速数百メートルといったレベル)で運動しているにもかかわらず全体としては動いていないように見えることと同じです。つまり気体分子の熱運動と同じ。というか、微粒子のブラウン運動は言ってしまえば微粒子の熱運動の影響がぎりぎり見えるサイズにまで現れているということなのです。
さて、ブラウン運動をする微粒子は時間とともに位置を変えてゆきますが、多数の粒子を平均するとその重心は動かないと書きました。とはいえ、個々の粒子は時間につれて元の位置から移動してゆきますから、最初の位置に残っている粒子の数はどんどん減ってゆきます。そして時間につれて元の位置から遠いところに到達する粒子もあるでしょう。この現象、いわゆる「拡散」ですよね。
「水に落としたインクが次第に広がってゆく」とか「タバコの煙が室内に広がる」などなど。拡散という現象は分子の熱運動(インクの例)や微粒子のブラウン運動(煙の例)のような、ランダムに方向を変える運動の結果として表れるのです。
もっとも、私達が日常でみる何かが広がってゆく、という意味の拡散の事例には多くの場合「流れ」もかかわっています。水面にインクの滴をおとしたら波紋が広がるでしょうし、タバコを吸っている人が少しの風も起こさないように固まっているとも思えません。そもそもタバコの火で熱対流という流れが生じてしまいますよね。
広い意味での拡散にくらべて熱運動によるランダムな移動が原因となる物理現象としての「拡散」は限定的で、そんなに早い過程ではないのです。
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