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都市ガスと自動運転(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 私達応用化学科の入っている東京工科大学八王子キャンパスの片柳研究棟では、基本的には都市ガスの供給がありません。つまり「オール電化」なんですね。さて、基本的には、と言ったのは例外があるから。例えば応用化学科の学生用の学生実験室には都市ガスが供給されていて、全ての実験机にガス栓がついています。

 もちろん、安全対策もとってあります。ガスを利用する際にはコントロールパネルのスイッチを入れる。自動で漏れチェックが行われた後にガスの供給がスタート。コントロールシステムは非常時にはガス栓を自動停止する機能も付いています。そして使用終了時にはコントロールパネルのスイッチを切りガスの供給を停止。ガスの安全な利用について、如何に気を遣っているか分かりますよね。

 これ、「安全に気をつけていて偉い」といえるかもしれませんが、逆に考えると都市ガスというものがそれほど潜在的な危険性をもっている、ということでもありますよね。

 都市ガスというシステムが存在していなかった、そういう世界を想像してみてください。その世界で「場合によっては爆発する可能性のある可燃性のガスを都市全体に張り巡らせたパイプのシステムを通して各家庭に輸送し、末端で燃焼させて利用する」というエネルギー供給システムを提案したら、

これだから素人は!ガスを漏らさないパイプのシステムの製造・維持コストを考えてくださいよ。知らないでしょうけど、液体である水とは気密性の確保の難易度は段違いなんですよ。

とか、

事業性があるなら私企業が実装を試みることに、まあ私としては反対しませんよ。でも、それで火災が増えるなど、公共の安全に影響を与える可能性はゼロではありませんよね。そうならないと保証できるかどうか、議論はそこからですよね。

などといった反論が渦巻いて全く話が進まないのでは?提案者は「諸外国では都市ガスなんて常識なのに。これだから日本は……」などと言っているかも。

 ここでタイトルを回収しましょう。こんどは自動車の「自動運転」が受け入れられてきた別世界を想像してみます。その世界の住人はどんな議論をしているのでしょうか。

 

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自動車を人間に操作させる、というのは原理的にはありうるかもしれません。とはいえ直感的な操作は難しいですから、購入者に対して一定の時間と労力をかけて操作のための訓練を受けてもらう必要があるでしょう。工業製品としては最悪のユーザーインターフェイスと言うべきですね。それに、人間が操作するなら「自動」車とはいえないよね。

とか、

自動車を自分で操作したい、という人たちが一定数いて、その人たちが自分の責任の範囲内で自動車の操作を楽しむ、それを否定するつもりはありませんよ。でも、公道を人間が操作した自動車が走って、もし事故が起こったらだれがどう責任をとるのですか?人間が操作しても絶対に事故を起こさないシステムの開発ができること。これが議論の出発点ですよね。

こんな感じでしょうか。

 新しい技術が世の中に受け入れられるためには大きな障壁がある。同時に既にある技術はその技術を使い続ける慣性の様なものがある。社会への受入を含めてイノベーションを考えるとき、その困難さは単なる技術を超えた問題だ、とうことに気が付きますね。

 

江頭 靖幸

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